~~
快挙が相次いだ。世界最高峰の映画賞、米アカデミー賞を日本の2作品が受賞した。
クールジャパンの代表格であるアニメーションと日本のお家芸ともいえる特撮映画である。その栄誉は、日本文化への高い評価でもある。受賞を祝うとともに、さらなる日本映画界の発展を期待したい。
長編アニメーション賞に輝いた宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」は、戦時下の日本を舞台にした異世界冒険ファンタジーだ。自身「千と千尋の神隠し」以来21年ぶり、2度目の受賞である。平成25年に年齢を理由に引退を表明したが撤回し、約7年をかけて製作した。
題名は吉野源三郎の小説から借り、自らの幼少期を映した半自伝的作品という。生と死が一体となった世界観は難解とされる一方で、深みがある。美しい映像とともに、単にエンターテインメントにとどまらないアニメの奥深さを示してみせた。
日本映画初の視覚効果賞を受賞したのは山崎貴監督の「ゴジラ―1・0(マイナスワン)」だ。これまで「スター・ウォーズ」など画期的な特撮や優れたCG作品が受賞してきた賞で、山崎監督はVFX(視覚効果)技術の第一人者である。
今回、高額予算で作る米映画に比べ、低予算が話題になったがそれだけではない。最新技術と日本古来のアナログ的で細やかな特撮手法がともに生かされた。そんな日本の技術が世界に認められたのである。
実はこうした手作り感は両作品に共通する。コンピューターを駆使した3Dアニメ全盛の中で、宮崎作品の手描きアニメの芸術性は世界が認めるところだ。今回のダブル受賞は取りも直さず、職人的な手作業や古典的な手法を大事にしてきた日本の映画文化への賛辞ともいえるのではないか。
先日「ドラゴンボール」などで知られる漫画家の鳥山明氏が亡くなった。68歳だった。世界を席巻する日本アニメブームの立役者の一人だが、宮崎作品の影響を受けたといわれる。
文化芸術に定年はない。83歳の宮崎監督も戻ってきた。プロデューサーを務めた75歳の鈴木敏夫氏は受賞に際し「もっと働けというメッセージ」とコメントを寄せている。日本映画界のため、これからも元気で頑張ってもらいたい。
◇
2024年3月12日付産経新聞【主張】を転載しています