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これが世界を席巻するプラットフォーム企業の公共感覚か。著名人になりすましたアカウントや広告による詐欺被害が深刻化しているのに、問題広告を掲載するSNS運営元の米メタには自浄能力がない。国民の財産を守るため日本政府は規制を含め毅然(きぜん)と対応すべきだ。
警察庁によると、SNSを使う投資詐欺は昨夏から急増し、昨年の被害は約278億円に上った。詐欺犯と接触したSNSは男性がフェイスブック、女性はインスタグラムが最多だ。
著名人を騙(かた)るSNS広告をクリックし、ラインの友達登録に誘導され、暗号資産の取引や投資名目で詐取される。広告には経済アナリストの森永卓郎氏、実業家の前沢友作氏、堀江貴文氏らが登場する。いずれも勝手に使われた詐欺広告だろう。
前沢、堀江両氏は自民党部会で規制強化を訴えた。前沢氏によると、自身のなりすまし広告による被害は188件、20億円に達する。メタに広告削除を求めたが対応されず、逆に「広告が増えている」という。
メタは声明を発表したが、企業利益の観点でしか問題をとらえておらず失望させた。膨大な広告の審査は難しいとし、「詐欺対策には社会全体でのアプローチが必要」と責任転嫁し、「その中で役割を果たす」と責任を限定するありさまだ。
プラットフォームは公共インフラだ。被害が出ればサービスを停止しても救済を優先するのが当たり前だ。それをできないというメタに、神戸などの被害者4人が賠償訴訟を提起した。原告は今後も増えるだろう。なりすまし被害者の前沢氏も提訴する意向を示している。
詐欺広告を排除すれば被害が当面止まるのは明白だがメタが動かない。ならば日本政府が動くべきだ。メタを詐欺の幇助(ほうじょ)に問うことも検討していい。岸田文雄首相は総合対策を6月をめどに策定すると表明したが、遅い。警察庁、総務省を中心に一日も早く策を講じるべきだ。
「預金から投資へ」の推進で、金融商品購入手続きのネット完結が一般的になったことが被害拡大の背景にある。金融当局も対策を提案してほしい。
音声や映像など生成AIによるフェイク情報は精度を増す一方だ。時流に合わせた詐欺がさらに増える危険がある。政府は規制をためらうべきでない。
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2024年5月7日付産経新聞【主張】を転載しています