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7月26日開幕のパリ五輪を前に、アスリートを性的な目的で撮影する「アスリート盗撮」を根絶するための動きが本格化し始めている。ミズノが赤外線カメラで盗撮しにくい「透けないユニホーム」を開発する一方、福岡県が条例でアスリート盗撮などを「性暴力」と規定するなど、盗撮行為を取り締まる方法も模索されている。
アスリート盗撮は、国内では令和2年8月、日本陸上競技連盟に選手が相談したことで関心が高まった。特に悪質なのが、赤外線カメラを使ってユニホームを透かして下着や体を撮影する手口だ。
ミズノは今年6月、特殊な鉱物を練り込んだ繊維を使い、赤外線による盗撮を防ぐ画期的なユニホームを公開した。パリ五輪に出場するバレーボールや卓球、アーチェリーなどの代表ユニホームに採用されている。
動きやすく通気性のいいユニホームはどうしても生地が薄くなるため透けやすく、競技のパフォーマンスと盗撮対策は両立が難しかった。新素材のユニホームは、赤外線を吸収して熱で汗を乾かすことで、盗撮防止と通気性の一石二鳥を実現した。開発に携わった同社の田島和弥氏は「アスリートの心技体を支えられるユニホームができた」と胸を張る。
肌の露出が少ない新たな選択肢を提供しようと、アスリート自身が衣装を開発した例もある。2016年リオデジャネイロ五輪と21年東京五輪の2大会に出場した体操女子の杉原愛子選手は、昨年6月に会社を設立し、太ももの上部までを生地で覆った「アイタード」を作った。
きっかけの一つは、「レオタードを娘に着せたくないから体操をやめさせようと思う」という保護者の声を聞いたこと。自身も下着や生理用品が見えてしまうのではという不安を抱えて練習をしていたことに気づき、「女性ならではの問題を無視するのではなく、新たな選択肢を提供したいと思った」と杉原選手は話す。
盗撮されにくいユニホームの開発が進む一方、盗撮自体を防ぐ対策や法整備には課題が大きい。
日本学生陸上競技連合(日本学連)の障子恵・理事は「大会では学生スタッフらが見回りをしているが、陸上ファンと盗撮者を判別するのは難しい」と話す。
日本学連では学生を盗撮したDVDが販売されているのを確認して以降、平成18年ごろから本格的に盗撮対策に取り組んでいる。撮影場所の限定や一眼カメラなどの機材の使用を登録制にすることで、盗撮しづらい環境をつくっている。
ただ、予算の少ないアマチュア競技では警備会社に依頼するなどの大がかりな対策はできず、盗撮者に狙われやすいという問題もある。最近はスマートフォンのカメラ性能が向上し、超望遠での撮影が可能な機種もあり、「対策はいたちごっこになっている」と障子氏はいう。
また、令和5年に性的姿態撮影等処罰法で新設された「撮影罪」は、着衣の上からの撮影が適用対象外となっており、アスリート盗撮を取り締まるのは難しい。下半身を執拗(しつよう)に撮影したような場合は、都道府県の迷惑防止条例違反として検挙された例もあるが、ハードルは高い。
こうした中、福岡県議会は今年3月、性暴力根絶条例の改正案を可決。衣服の着用にかかわらず性的な意図で同意なく人の姿態などを撮影する行為を「性暴力」と定義した。罰則規定はないが、啓発効果が期待される。
スポーツとジェンダーの問題に詳しい明治大の高峰修教授は「東京五輪をきっかけにアスリートを守る動きが活発になった。社会全体にアスリートの盗撮を許さないという意識を根付かせることが重要だ」としている。
筆者:桑島浩任(産経新聞)