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米国のアポロ11号による人類初の月面着陸から、55年が経(た)つ。
《西暦1969年7月、惑星地球から来た人類が初めて月に降り立つ。全人類の平和のために来た》
着陸船「イーグル」のはしごに付けられた記念銘板は、今も月に残る。
アポロ計画は米国と当時のソ連の対立から生まれたが、その成果は《全人類の平和》のためと刻まれた。
人類は再び月を目指し、米国が主導する「アルテミス計画」には、日本人飛行士の月面着陸が正式に組み込まれた。人が宇宙に行くことには、国家間の対立を超越した意義があることを、改めて確認したい。
これまでの半世紀余に科学技術は飛躍的に進展したが、地球以外に足跡を残したのはアポロ計画の12人の飛行士だけだ。
米国はアルテミス計画での月探査の先に、有人火星探査を見据える。日本のアルテミス計画参加は、米国のロケットと宇宙船で日本人飛行士が月面に立つことが目標到達点(ゴール)ではない。もっと重要なのは、日本が担う有人月面探査車の開発、運用を成功させ、有人宇宙活動において技術力と存在感を示すことである。
米国に対抗しうる「宇宙強国化」に邁進(まいしん)する中国は、無人探査機による月の裏側からのサンプルリターン(試料採取)に成功した。探査機には欧州宇宙機関やフランス、イタリアの機器も搭載された。宇宙開発に国威を誇示する側面があるのは、米ソが対立したアポロ計画の時代と変わらない。
ただし、今の宇宙開発は半世紀前と比べると軍事や経済に直接的に波及する。国際協力の意義は否定しないが、中国の強国化と欧州への接近は警戒しなければならない。
日本は米国との協力に軸足を置いたうえで、欧州各国やインドなどと連携し、中国の覇権と米中対立に翻弄されない足場を築くことが大事だ。
米ソの冷戦終結後、国際宇宙ステーション(ISS)計画で米国とロシアは協力関係に転じた。2014年に地上で米露関係が悪化したとき、ISSで船長を務めていた若田光一さんは「和の心」で米国2人、ロシア3人の飛行士と対話し協力関係を守った。日本は「全人類の平和」に貢献できる。
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2024年7月21日付産経新聞【主張】を転載しています