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いてつく空気に包まれた暗闇の中、シャッターチャンスをじっと待つ。背後の山陰から昇る太陽が対岸を照らすと、沼の周辺の木々が赤く輝いた。真っ赤な山肌を映す水面も、瞬く間に燃えるような色に染まっていった―。
青森県十和田市にある蔦沼(つたぬま)はJR新青森駅から車で約1時間半、十和田湖の北約15キロに位置する奥入瀬エリアの景勝地。周辺には蔦沼を含めて「蔦七沼」と呼ばれる7つの沼がある。
蔦沼は最も大きく周囲約1キロ。紅葉がピークを迎えた時期にだけ見られる早朝の光景が、写真愛好家らの人気を集めている。しかし、ダイナミックなショーは一瞬の出来事。太陽が高度を増すと、辺りの山々は晩秋の淡い赤や黄へと変化した。
もちろん、早朝以外でも自然は十分に楽しめる。一帯は遊歩道が整備されており、1周1時間半あまりの散策ではブナやカエデ、モミジの原生林、多種多様の野鳥などを観察できる。奥入瀬観光コンシェルジュの鳴海仁さん(47)は「蔦沼だけでなく、それぞれが個性的。新緑の季節にはブナの青葉、冬は雪に覆われ静まり返った沼など、四季折々の表情がある」とアピールする。今は冬への〝衣替え〟の真っ最中だ。
カメラを持って訪れた青森市の山口源広さん(78)は「朝3時から日の出を待って良い写真が撮れた。山頂が真っ赤になったのが印象的だった。次は雪景色を狙いたい」と満足そうだった。
筆者:松本健吾(産経新聞写真報道局)
※2014年11月2日付の産経新聞に掲載した連載「探訪」のアーカイブ記事です。肩書、年齢、名称などは掲載当時のまま。