Tae lead photo Kenji Yoshida

8月に開催された民主平和統一諮問会議の会議に参加する太永浩氏(右)と尹錫悦大統領(©大韓民国大統領府提供)

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ウクライナ戦争での北朝鮮軍参戦が報じられ、朝鮮半島の緊張が一層高まっている。そんな中、10月31日、北朝鮮は新型といわれる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したと発表。一部の専門家は、ロシアの技術が関与している可能性を示唆した。

このような情勢は決して偶然ではない。今年初め、北朝鮮は長年の朝鮮統一目標を放棄し、10月には南と正式に断絶することを表明した。一方で、ドナルド・トランプがホワイトハウスに復帰することによって、すでに不安定な状況に予測不可能な要素が新たに加わることとなった。

JAPAN Forwardは、民主平和統一諮問会議の太永浩(テ・ヨンホ)事務処長と独占インタビューを行い、深刻化する朝鮮半島の地政学状況について聞いた。元北朝鮮のエリート外交官である太氏は、2016年に家族とともに南に亡命した。民主平和統一諮問会議の事務処長に任命される前、太氏は韓国の与党「国民の力」で国会議員を務めた。

JAPAN Forwardとのインタビューに応じる太永浩氏(©吉田賢司)
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民主平和統一諮問会議はどういう機関か?

民主平和統一諮問会議は、朝鮮半島の統一に向けた努力を支援するため、韓国の憲法に基づいて設立された機関である。主な役割は、統一に関する世論を収集・分析し、その結果を大統領に報告すること、そして政府の関連政策を推進することである。現在、136カ国で活動する2万人以上の諮問委員が、共通の目標達成に向けて世界中で積極的に活動している。

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最近の訪米出張の目的は?

民主平和統一諮問会議は最近、世界中の専門家と統一政策を協議するため、世界戦略に関する特別委員会を設置した。この取り組みの一環として、今回ワシントンに訪問し、現地の政治家や学者、韓国問題の専門家たちと交流した。また、北朝鮮の内部変化や、8月に発表された尹錫烈大統領の「8.15統一ドクトリン」について講義も行った。

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8.15統一ドクトリンの特徴とは?

尹大統領の統一ドクトリンは、明確な統一ビジョンを掲げるとともに、いくつかの新たな目標を提案している。歴史的に、南北双方は統一への願望を表明してきたが、その展望は大きく異なっていた。これまでの歴代大統領は、北朝鮮当局との対話を維持し、交渉を損なわないために詳細なビジョンの提示を避けてきた。しかし、尹大統領は、統一後の国家がすべての国民の自由と安全を保証するものでなければならないと明確に強調している。

また、尹大統領の政策は、統一へのアプローチを根本的に変えている。これまでの政権は、対話と協力を通じて北朝鮮との関係を正常化しようとしていた。しかし、北の当局は一貫してこうした努力に抵抗したため、尹大統領は消極的な政府ではなく、北朝鮮の市民と直接関わることに重点を移したのだ。

注目すべきは、新たなドクトリンには北朝鮮の非核化に関する言及が一切ない。その代わりに、尹政権は北朝鮮市民の意識改革を通じた人権状況の改善に主軸を置いている。こうした努力を通じて、最終的には朝鮮半島の安全保障問題や核問題に取り組むことが可能になると尹政権は考えている。一部の批評家は、このアプローチを「吸収統一(unification by absorption)」と表現しているが、その見方は正確ではない。我が政府が目指すのは、北朝鮮市民が自らの未来を切り開く力を持てるよう支援することである。

この政策がなぜ望ましいのか?

8.15統一ドクトリンは、我が民族のアイデンティティと歴史的経験に深く根ざしている。韓国の近代史を振り返れば、かつて権威主義政権がトップダウン(top-down)の統治を通じて経済発展と工業化を推進した時代があった。しかし、国が一定の発展段階に達すると、国民はボトムアップ(bottom-up)の民主化運動を通じて自由民主主義を追求するようになった。

尹大統領は、韓国が民主化の道を国民の力で歩んだように、北朝鮮との統一プロセスも草の根からの努力に基づくべきだと考えている。このボトムアップのアプローチこそが、より安定で、永続的な朝鮮半島の統合への道を切り開くと信じている。

2023年、ロシアを訪問した金正恩総書記と会話するプーチン大統領(©ロシア大統領府提供)

北朝鮮は「敵対的二国家論」を宣言したが、尹大統領のドクトリンは通用するか?

韓国では、今回の新ドクトリンがメディアで広く議論され、インタビューや政策討論、国民的な談論を伴っている。対照的に、北朝鮮ではそのような議論はほぼ見当たらない。金正恩が韓国を「敵対的二国家」と表現したことを除けば、そのような考えが一般市民に浸透している兆候はない。この点は、日本の親北団体である朝鮮総連の反応にも表れている。北朝鮮当局は統一を断念し、二つの敵対国家を宣言したことで、同団体からかなりの反発を受けている。もし「二つの国家論」が北朝鮮内外で広まりを見せていれば、より広範な支持を集めているはずだ。しかし、北朝鮮の機関紙『労働新聞』を定期的に読んでいるが、この考えを推進する社説や記事は一つも見当たらない。

最近、北朝鮮から相次いで高官が脱北する事例が増えているが、これも多くの北朝鮮住民が、韓国のように豊かに暮らせる統一朝鮮を夢見ているという感情変化を示している。現在の北朝鮮は、東ドイツの歴史に似ている。東ドイツは1974年に憲法を改正し分断を公式化したが、わずか15年後の1989年にはベルリンの壁が崩壊した。同様の運命は北朝鮮にも避けられないと信じている。

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北朝鮮内で著しい変化が起きていると聞いた。

この20年間で、北朝鮮には市場経済が徐々に根付いてきている。国営の配給制度が崩壊した結果、全国に400を超える市場が設立され、現在では北朝鮮国民の70%以上が資本主義的な市場経済に依存している。

二つ目に、北朝鮮の若い世代は韓国の映画や文化コンテンツに深く浸透している。金政権はこの影響を取り締まるために強権的な法律を導入しているが、こうした文化的影響はすでに北朝鮮の社会構造に深く根付いる。

ドナルド・トランプ氏は金正恩と再び交渉をするだろうか?

交渉の可能性はあると思うが、取引の成立は低いと考えられる。金正恩が求めているのは、北朝鮮の核保有をワシントンが公式に認めることだ。しかし、もしトランプ氏がこの要求に譲歩すれば、世界のNPT(核拡散防止条約)の枠組みが不安定になるだろう。結局、米国は北朝鮮の非核化を進めざるを得ないが、体制維持に不可欠な兵器を金正恩が手放すことは考えにくい。

2019年、トランプ大統領と会談する金正恩総書記(©ホワイトハウス公式写真 Shealah Craighead撮影)

トランプはかつて、ウクライナ戦争を24時間で解決できると主張した。可能だろうか?

その可能性は極めて低い。トランプ氏は、ウクライナの大統領が言うことを聞かなければ、すべての軍事援助を打ち切ると示唆している。そのような動きは、米国が1994年に交わしたブダペスト覚書をはじめとする重要な国際合意を放棄することを意味する。当合意で、ウクライナは核兵器を放棄する代わりに、米国と他の国々がウクライナの領土保全を外部の脅威から守ることを約束した。しかし、2022年の戦争勃発以来、ウクライナはすでに国土の20%近くを失っている。

もしワシントンがキエフに現状を受け入れ、停戦に応じるよう言えば、ウクライナでの紛争は終結するかもしれない。しかし、ウクライナの背後には東ヨーロッパがあり、さらにその背後には西ヨーロッパが控えている。いずれも集団安全保障条約の枠組みでアメリカと同盟を結んでおり、ワシントンがこのような動きを取れば、アメリカの世界的な地位とリーダーシップの信頼性は著しく損なわれるだろう。

とはいえ、次期大統領の発言は、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領に圧力をかけるための政治的レトリックに過ぎないと考えられる。就任後、トランプ政権はおそらく、よりバランスの取れた合理的なアプローチを追求するだろう。

韓国の与党内には、北朝鮮の挑発に対抗するため、核兵器や潜伏能力の開発を主張する者もいる。

「国民の力」の一部、または韓国国民の間では核武装を求める声が高まっているが、その多くは次期トランプ政権の行動にかかっている。バイデン大統領の時代、アメリカの核抑止力は強固であった。キャンプ・デービッド原則は韓国の安全保障を支え、米国の核資産は定期的に朝鮮半島に配備されていた。

トランプ氏の復帰により、多くの不確定要素が残る。しかし、トランプ氏が北朝鮮に対し、核兵器のいかなる使用も体制の終焉につながるという強い警告を発し、さらにソウルと協力してより強固な核抑止計画を策定すれば、韓国内での核武装への支持は減少するだろう。

トランプはバイデン政権が築いた安全保障体制を維持するだろうか?

就任後、トランプ氏もより伝統的で確立された政策路線を堅持する可能性が高いと考えられる。韓国、日本、米国はすでにキャンプ・デービッド原則を基盤として強固な協力体制を構築しており、仮にトランプ氏がそれを解体しようとしても、簡単には実現できないだろう。

筆者:吉田賢司(ジャーナリスト)

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