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その土地を訪れないと味わえない食を巡る旅「ガストロノミーツーリズム」が注目を集めている。日本の食に関心が高い訪日外国人客らに遠い地方まで足を延ばしてもらい、美食に舌鼓を打つだけでなく、地域の文化や歴史といった「隠れた魅力」に触れてもらう取り組みだ。新型コロナウイルス禍の収束で急増した訪日客が都市部に集中し、地方への誘客が課題となる中、国も各地の取り組みを後押しする。
天橋立に一極集中
10月下旬、京都府宮津市のホテル。城﨑雅文市長は「宮津には天橋立だけでなく『食』もあることをアピールしたい」と記者団に訴え、多彩な料理を紹介していった。
小松菜とサザエのグリーンスープ、甘鯛の鱗(うろこ)揚げ、サバ缶を使ったおにぎり。食文化の普及に尽力した人を顕彰する農林水産省の「料理マスターズ」を受賞した2人の料理人が考案し、いずれも宮津産の食材を用いた。レシピは今後、市内の飲食店に共有される。
背景には市の強い危機感がある。市内では日本三景の一つ・天橋立に国内外の観光客が一極集中。さらに宿泊施設が少なく、日帰り客が全体の約8割を占める。「来訪者数は好調だが、リピーターが少ない」と城﨑市長。一方、これまでの調査で、観光客が宮津の食に高い満足度を示していたことも把握していた。
どうすれば観光客の滞在時間を延ばせるのか。市が「食の街」へのリブランディング(再構築)を打ち出したのは令和4年。定置網漁体験など食を軸としたツアーなどを企画し、宮津を訪れてこその「ガストロノミー」の形で誘客を模索する。市の担当者は「天橋立だけでなく、四季を通じて宮津を楽しんでほしい」とアピールする。
コスト面も魅力
訪日客は日本食への関心が高いとのデータがある。観光庁による訪日外国人消費動向調査(令和5年)では、訪日前に最も期待していたのは「日本食を食べること」が36・0%。2位の「自然・景勝地観光」(11・5%)や3位の「ショッピング」(8・6%)に大差をつけた。日本食への期待感は近年高まるばかりで、元年の調査より8・4ポイントも上昇した。
国もガストロノミーツーリズムを推進する。理由は古都・京都などで課題となるオーバーツーリズム(観光公害)の緩和や地方誘客だけではない。国連世界観光機関のガイドラインが「多くの地域でガストロノミーは富と雇用の創出に貢献している」と示すように、食材を供給する1次産業や加工などを担う2次産業など、地域を横断的に巻き込む効果があるからだ。
地方側も新施設の建設といった大規模な投資は不要で、コスト面のメリットも魅力といえる。
経済効果調査へ
観光庁は今年度、経済波及効果の調査事業として、ガストロノミーツーリズムに取り組む自治体などを全国から公募。宮津市提案の事業のほか、美しい星空と瀬戸内の食文化を生かした「星降るレストラン」を企画した岡山県井原市や、和牛の希少種「山形村短角牛」などの食を通じ暮らしを体験する岩手県久慈市の事業など6件を採択し、1件あたり2千万円(上限)を支援する。
観光庁の担当者は「波及効果や課題を調査し、ガストロノミーによる観光促進が全国各地で自走できるように後押ししていきたい」としている。
地方観光の活性化、人手不足解消が急務
アフターコロナ時代に入って訪日客が急増する中、観光業界は地方も含めて深刻な人手不足に陥っている。働き手が十分に戻らず、一部で営業日を縮小するといった動きまである。ガストロノミーツーリズムなどによって地方が盛り上がろうにも、人手不足の解消が進まなければ「不完全感」は拭えない。
帝国データバンクが10月に実施した企業の人手不足に関する調査によると、旅館・ホテルの62・9%で「正社員が不足している」とし、60・9%で「非正社員が不足している」と答えた。業務効率化やスポットワーク(空き時間の単発労働)の導入などの効果もあり、昨年の調査より人手不足は緩和傾向だが、高い水準にあるという。
一方、観光事業者が加盟する「サービス・ツーリズム産業労働組合連合会」が今春公表した調査結果によると、加盟する宿泊施設の48・6%が人手不足でサービスを提供できず営業日を縮小したと回答。営業時間の短縮も34・3%に上った。また、28・6%が全館休業日を設けたとし、17・1%が店舗の統廃合に踏み切ったとした。
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地域全体で目標共有を 平安女学院大の尾家建生特任教授(観光学)
食を使ったまちおこし戦略は以前から存在していたが、それはいわゆる「美食」が中心だった。地域の特徴が感じられるガストロノミーツーリズムは、新型コロナ禍の行動制限が緩和されて以降、注目を集めるようになり、ブームが訪れているといえる。
しかし、ガストロノミーツーリズムが抱える課題も少なくない。優秀な料理人は都心部の有名店に集中しているため、地方では食をブランド化するための料理人が不足している。さらに飲食業を支える従業員の人手不足も挙げられる。また地球温暖化などの気候変動により、地元食材の品質維持も懸念される。
ガストロノミーによる(地方の)さらなる観光促進のためには、地域全体で目標を共有し、取り組んでいく必要があるだろう。食のブランド化や地域の知名度アップ、より観光しやすい街にするためにも、飲食店だけでなく、自治体や観光協会らも同じ意識を持ち、地域全体で取り組んでいくことが求められる。
筆者:堀口明里(産経新聞)
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