トランプ氏が第47代米大統領に就任する。世界はすでに、トランプ氏の言動を念頭に動き始めている。
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米アリゾナ州でのイベントに登場したトランプ次期大統領(ロイター=共同)

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トランプ氏が1月20日に第47代米大統領に就任する。昨年の大統領選で激戦州を全て制覇し、総得票数でも民主党のハリス副大統領を上回って勝利したトランプ氏は不法移民の大規模送還など公約実現に努めるだろう。

「米国を再び偉大に」を旗印に、同氏は外交でも米国の利益の保護や拡大に資するよう、相手が同盟国か、敵対する専制国家かにかかわらず大胆な取引を試みるとみられる。世界はすでに、トランプ氏の言動を念頭に動き始めている。

ウクライナ・バフムート近郊で警戒するウクライナの兵士(©Serhii Nuzhnenko, Radio Free Europe/Radio Liberty/the Collectionofwar.ukraine.ua)

大戦前夜の危機感持て

「世界は第三次大戦の瀬戸際」というトランプ氏の認識は間違っていない。ロシアのウクライナ侵略は2月に4年目に突入する。シリアのアサド政権が崩壊した中東では新たな勢力争いに加え、イスラエルとイランの対立も激化しそうだ。中国は台湾の併吞(へいどん)を武力で実現し得る態勢を習近平国家主席の共産党総書記の任期である2027年までに整えるとみられる。

欧州、中東、アジアの3圏域で紛争が連鎖すれば、戦間期から大戦に突入してしまう。1930年代以来の危機といえる。トランプ氏は、民主主義と自由、法の支配など価値を共有する同盟・同志国との分断を、自国第一の取引外交で招かぬようにしてもらいたい。

トランプ氏は、旧ソ連との軍拡競争で東西冷戦の勝利に導いたレーガン元大統領にならった「力による平和」を外交の基本原則に据えた。だが、米国単独でその実現は不可能である。

ウクライナ戦争では、北朝鮮やイランがロシアを軍事支援し、制裁で疲弊するロシアの経済を中国が支える。米国が内向きになろうと、中露、北朝鮮、イランという専制主義勢力が反米で結託を強めている。

中国は米国の想定を上回るペースで核戦力の増強を進めている。核兵器を振りかざしたプーチン露大統領にならって、核恫喝(どうかつ)によって米国の台湾有事介入を阻止したいのだ。

中露両国で米国を数で上回る核兵器を配備し、北朝鮮やイランがロシアから技術を得て核ミサイル開発を加速する。専制4カ国が核で手を組む状況に米国と同盟諸国は対峙(たいじ)している。

護衛艦「かが」甲板で、発艦準備する米軍F35Bステルス戦闘機 =2024年11月6日午後、米カリフォルニア州・サンディエゴ沖(彦野公太朗撮影)

米国には軍事力、経済力、技術力を総動員し、サイバー・宇宙空間を含む抑止力の向上が急がれる。それには同盟国との緊密な連携、防衛力の適切な分担で民主主義陣営全体の抑止態勢を構築する必要がある。

それなのにトランプ氏は、先進7カ国(G7)、北大西洋条約機構(NATO)の一角、隣国のカナダにいきなり関税引き上げの圧力を加えた。同盟国は自らが標的とならないかを警戒する。内政の知恵袋となる実業家、イーロン・マスク氏が外交に口先介入するのも心配だ。

1期目に欧州との通商交渉で亀裂を招いた愚を繰り返してはならない。当時と異なる「大戦前夜」の危うい国際情勢がそれを許さないのだ。

主権と安全を保証せよ

トランプ氏が早期停戦を目指すウクライナは「新・力による平和」の試金石となる。

ロシアの継戦能力には衰えが指摘される。ウクライナは士気を保つが、無差別攻撃の恐怖下で国民の疲弊は激しい。欧州各国にも支援疲れが目立つ。

トランプ氏はウクライナに支援継続を望むなら交渉に参加せよと説き、ロシアには停戦に応じなければ制裁やウクライナ支援を強化すると迫るだろう。

この仲介外交に期待感が芽生えているのも事実だ。だが、プーチン氏の要求通りに、露軍が占領した領土の放棄をウクライナに押し付けては危うい。主権尊重と領土保全という国際秩序の規範に米国が背を向けるに等しいからだ。アジアや中東で別の侵略を誘発する恐れを無視すべきでない。

中国軍の専用車両で輸送されるミサイル。中国国営中央テレビ電子版が2024年10月14日、台湾周辺で実施した軍事演習の一場面として報じた(共同)

交渉主導役のウクライナ・ロシア担当特使に就任するケロッグ退役陸軍中将は、ウクライナが安全のために求めるNATO加盟は「長期間延期されるべきだ」と主張してきた。だが、西側諸国がNATO加盟に代わる安全をいかに保証するのかを示さなければ無責任である。再侵略を抑止する停戦監視部隊の編成は欧州だけに任せられるだろうか。

日本は米国との強固な同盟関係を基盤に、世界秩序の堅持に資するよう、トランプ次期政権との緊密な意思疎通をしなければならない。米国の同盟網を結びつけるべく、石破茂政権の能動的な関与が問われよう。

2025年1月7日付産経新聞【主張】を転載しています

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