2040年度の電源構成などを定める第7次「エネルギー基本計画」の原案が2024年末に示された。原子力発電の正当な評価が注目される。
Tohoku Electric Onagawa Nuclear Power Station

東北電力の女川原発2号機

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国際緊張の高まりと地球温暖化が重なる中でエネルギー安全保障の重要性が増している。

こうした時局を背景に令和22(2040)年度の電源構成などを定める第7次「エネルギー基本計画」(エネ基)の原案が昨年末に示された。

電源構成で注目すべきは原子力発電の正当な評価の回復だ。14年前の東京電力福島第1原発の事故以来、これまでのエネ基で踏襲されてきた「可能な限り原発依存度を低減する」の表現は消去され、「最大限活用する」と明記された。

また、複数の原子力発電所を持つ電力会社が廃炉を決めた場合、他の自社の発電所内での建て替えを認める制度も加わった。次世代革新炉の速やかな導入を可能にする措置である。

沸騰水型の稼働を急げ

電力の安定供給と脱炭素の両立を目指す7次エネ基は、今年度内に閣議決定される。

こうした政策の転換と前後して昨秋から沸騰水型軽水炉(BWR)原発の再稼働が始まっていることにも注目したい。東北電力女川原発2号機(宮城県)と中国電力島根原発2号機(島根県)が昨年10月と12月に再稼働した。

それまでに再稼働した12基はすべて加圧水型軽水炉(PWR)だった。福島第1原発と同型のBWRは東日本に多く安全審査が遅れていたので再稼働の西高東低現象が起きていた。

この地域差の本格解消に向けては東電の柏崎刈羽原発7号機(新潟県)の再稼働が待たれるが、原子力規制委員会の安全審査に合格して燃料セットを終えているにもかかわらず、待機状態が続いている。花角英世・新潟県知事の同意がないためだ。石破茂政権は首都圏の電力危機を招きかねない状態の早期解消に乗り出すべきである。

日本の原発はPWR16基、BWR17基の計33基が存在するが、再稼働は14基にとどまっている。著しい遅れだ。

新潟県の東京電力柏崎刈羽原発の6号機(右)と7号機=2021年4月(共同)

原発がなくても電気は不足していないという声もある。足りているのは電力会社が輸入天然ガスの火力発電で補っているからだ。結果として膨大な国富の流出だけでなく電気代の値上がりによる産業競争力の低下と景気低迷を招いている。

国民も石破政権も野党もこの現実を直視すべきだ。

エネルギーと表裏一体の地球温暖化についても目配りが必要だ。温暖化防止の国際ルール・パリ協定では、各加盟国が5年ごとに温室効果ガスの削減の更新目標を提出することになっている。その期限が今年2月に迫っている。

これまでの目標は令和12(2030)年度に46%減だったので、令和17(2035)年度目標は、さらに高い60%減となる見込みである。

その達成には、政府による原発の再稼働促進と新増設への即刻対応が不可欠だ。13年前後に及ぶ長期停止で、かつて世界有数の技術力を誇った日本の原発建造能力にはサプライチェーンを含めて影が差している。

パリ協定とAI視野に

第7次エネ基は、太陽光や風力発電に原発と同等か、それ以上の期待をかけているが、再エネは安定性に欠ける上、ソーラーパネルによる山林生態系の破壊は深刻だ。基幹電源には長期連続運転が求められる。それに応えられるのは原子力をおいて他にない。

1月20日のトランプ政権の発足に伴う米国のパリ協定離脱が世界の脱炭素交渉の力学に及ぼす影響の見極めも不可欠だ。

生成AI(人工知能)やそれを支える半導体産業、データセンターの増加で周波数の乱れがない高品質の電力需要は、右肩上がりになっていく。

原子力の持続的な活用には、核燃料サイクルの確立が急がれる。そのためには日本原燃の再処理工場の完成と原子力発電環境整備機構(NUMO)による高レベル放射性廃棄物の地層処分地探しが急務である。年内の前進を期待する。

わが国のエネルギーの回復と温暖化問題への対応で成否の鍵を握るのは規制委だ。行政手続法に従えば2年間で終わるはずの原発の安全審査を遅滞させている。日本原子力発電の敦賀2号機の安全審査では「可能性が否定しきれない」という非科学の論理で不合格の断を下した。規制委の唯我独尊を放置すれば第7次エネ基の計画も目標のゴールから遠ざかる。

令和7年は日本の国力を回復軌道に乗せる正念場の年だ。

2025年1月8日付産経新聞【主張】を転載しています

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