3月8日は「国際女性デー」。「男社会」の典型とみられてきた自衛隊では、職務環境の整備などに取り組み、女性の活躍がみられるようになっている。
JMSDF Women in Service

陸上自衛隊の女性自衛官教育隊の隊員ら=2024年6月30日、陸自朝霞駐屯地(陸自提供)

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「男社会」の典型とみられてきた自衛隊が変わりつつある。採用者の5人に1人は女性で、人手不足に悩む自衛隊にとって女性自衛官は今や「不可欠」(中谷元・防衛相)な存在だ。配置制限の撤廃で、戦闘機や護衛艦といった最前線でも女性が活躍するようになっている。

【防衛省・自衛隊の取り組みポイント】

  • 配置制限を撤廃、ほぼすべての職域で働けるように
  • 駐屯地に託児施設を開設するなど育児との両立支援
  • 女性「佐官」を令和7年度までに5%以上に引き上げ

入隊者の2割女性

「何をすべきかを考え、ためらうことなく行動に移す姿勢で職務に臨んでもらいたい」

1月14日、青森県むつ市の海上自衛隊大湊基地。約150人の隊員を前にこう訓示したのは大湊地方総監、近藤奈津枝海将(59)だ。

近藤氏は2023年12月に海自で最も階級の高い海将に昇進した。女性が「将」になるのは陸海空自衛隊で初めてだった。

自衛隊では23年度時点で、全体の8・9%に当たる約2万人の女性が勤務している。採用者に占める女性の比率は年々上昇傾向にあり、23年度は18%と10年前に比べて倍増した。

増加の背景には、採用枠の拡大に加え、配置制限の解除がある。自衛隊はかつて戦闘に直接関わる職域に女性を配置していなかったが、1993年から段階的に開放した。

年頭訓示を述べる海上自衛隊大湊地方総監の近藤奈津枝海将=1月14日、海自大湊基地(海自提供)

「性別関係なくチャンスを」

ただ道のりは平坦(へいたん)ではなかった。航空自衛隊で戦闘機パイロットへの配置制限解除を巡る議論が始まった当初、「女性が捕虜になる姿を国民は受け入れられない」と否定的な意見を口にする幹部もいた。

当時、制限解除に取り組んだ吉田ゆかり1等空佐(51)は「能力、適性、意欲があるなら、性別に関わらず、チャンスを与えられるべきだと思った」と振り返る。全国の飛行隊に撤廃の賛否を問うアンケートを行ったり、他国の軍隊の状況を確認したりして最終的に解除にたどり着いた。

防衛大学校の女子1期生でもある吉田氏は「制度面でも設備面でも昔と景色が変わってきている」と話す。自衛隊は駐屯地や基地に託児施設を整備するなど、育児、介護との両立支援に注力する。女性が勤務しやすい環境を整えることで、男性も働きやすくなり、部隊全体が精強になるとの指摘もある。

航空自衛隊の吉田ゆかり1等空佐=2月12日、東京都新宿区の防衛省防衛研究所(竹之内秀介撮影)
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ハラスメント対策

一方、2022年には元陸上自衛隊員の五ノ井里奈さんに対する性加害事件が発覚。防衛省は被害発見のためのアンケートを行うなど再発防止に取り組むが、ハラスメントは後を絶たない。

防衛省は25年度までに自衛隊の佐官級(中堅幹部)以上に占める女性比率を5%以上に引き上げる目標を掲げる。23年度時点では4・4%に止まり、自衛隊幹部は「意思決定に女性がさらに参加するようになればハラスメント対策もより効果的になるはずだ」と語る。

入隊者の減少に拍車をかけかねないハラスメントを根絶し、組織の魅力を高められるか。自衛隊の模索は続く。

筆者:竹之内秀介(産経新聞)

2025年3月1日付産経新聞【3・8 国際女性デー 半径5mからの一歩】を転載しています

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