韓国国会議員の印曜翰氏が、韓国の深刻化する政治的混乱と喫緊の課題を語った。
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印曜翰国会議員(©吉田賢司)

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政治的混乱が深刻化する中、韓国は喫緊の課題に直面している。こう語るのは韓国国会議員の印曜翰(イン・ヨハン)氏だ。

尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の弾劾に関する憲法裁判所の判決が間近に迫り、韓国では緊張が一層高まっている。8人の裁判官のうち6人以上が弾劾案を支持すれば、尹大統領は罷免され、60日以内に早期大統領選挙が実施される。一方、棄却されれば、大統領は任期を全うすることになる。

どのような決断が下されようとも、次期指導者は、地域内の地政学的緊張の調整から医療危機への対応に至るまで、重大な課題に直面することになる。

JAPAN Forwardとの独占インタビューで、与党最高委員で医師の印氏がこれらの課題について語った。米国人宣教師の家系に生まれた印氏は四世で、2012年に韓国籍を取得した。

憲法裁判所はどのような判決を下すと予想するか?

憲法裁判所は、適正手続きの不備を理由に、尹大統領の弾劾訴追を却下すべきだと考える。事件の詳細は二の次であり、最も重要なのは、正当な手続きが踏まれていないという点だ。したがって、この申し立ては全面的に棄却されるべきである。

尹大統領が復帰した場合、優先すべき課題は?

まず、尹大統領を不法に収監した人物らを訴追することが必要だ。これは感情的な反応でも党派的な主張でもない。法が誤って適用されたのであれば、関係者はその責任を問われなければならない。

次に、尹大統領の在任期間を短縮するため、既存の法律を改正する可能性もある。私は、大統領が残り2年の任期を全うするとは考えていない。実際、大統領自身も憲法裁判所での最終弁論で同様の趣旨の発言をしている。早期退陣自体は問題ではないが、それはまず国に政治的秩序と安定をもたらした後であるべきだと。

韓国の「5年・1任期」の大統領制を見直すため、憲法改正もあり得る。多くの人々が改革を求めるのも当然だ。歴代大統領の何人もが任期終了後に刑務所に収監され、一人は自ら命を絶った。この状況は異常であり、何か根本的に誤っていると言わざるを得ない。現行制度は、韓国の政治文化にそぐわないのではないか。

外交と安全保障ではどうか?

尹大統領の弾劾以来、韓国は外交と安全保障の分野で大きな空白を経験してきた。私は当時、野党の最高委員メンバーに対して、安定を保つために韓悳洙(ハン・ドクス)首相兼大統領代行を弾劾しないよう懇願したことを覚えている。しかし、彼は私ことを「内乱のシンパ」と呼んだ。

大統領に復帰した後は、トランプ政権に対応するための戦略を立てる必要がある。相互課税や貿易問題、関税など、韓国が日本と同様に対処すべき課題が山積している分野に注力しなければならない。

核保有を求める声が高まっていることについてどう思うか?

韓国国民の70%以上が一貫して核保有に賛成している。アメリカの戦術核を再配備するにせよ、独自の核を開発するにせよ、北朝鮮が核兵器を維持するという決意を固めている以上、この議論は避けられない。

プーチン大統領との会談に臨む金正恩氏=2024年6月(©ロシア大統領府)

北朝鮮の体制が直ちに核を放棄するとは考えにくい。25年ほど前、私は故盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領に対し、金一族が核を放棄することはないだろうと率直に伝えた。残念ながら、私はその予測が正しかった。もし韓国が陸上核兵器を保有することになれば、対北制裁解除の可能性について議論を始めることができるだろう。

トランプ大統領は非常に実務的な人物であり、1991年に半島から撤退したアメリカの戦術核兵器を再配備することや、韓国が独自の核兵器を保有することを支持するであろうと考える。北朝鮮の核武装は、日本を含む北東アジア諸国が核戦力を追求する強い根拠である。

1月、バイデン政権は韓国を「敏感国」に指定した。この決定の背景には何があると思うか?

ジョセフ・ユン駐韓米国大使代理は、米国エネルギー省が韓国側の訪問者による米研究所での機密情報の誤扱いを受け、韓国を監視リストに加えたと述べた。

しかし、私の見解は異なる。ワシントンの監視リストに加えられたのは、まさに韓国国内の政治的混乱が原因だと考思う。野党はこの数ヶ月、12・3戒厳令時以上の混乱を引き起こしてきた。

妥協を完全に拒否し、これまで30回以上の弾劾を押し通した野党の行動は異常だと言わざるを得ない。患者に例えるなら、野党は精神的に病んでいる。

尹大統領の罷免を求めるプラカードを掲げる共に民主党議員ら(©朴賛大議員フェイスブック)

第一野党の共に民主党は、なぜこれほど無謀な行動に出るのか?

共に民主党の唯一の使命は、尹大統領を失脚させ、党首の李在明(イ・ジェミョン)を大統領に押し上げることだ。李氏は現在、複数の法律違反の疑いでいくつかの刑事裁判を抱えており、野党議員たちは彼がこれらの罪から免れることを期待し、急いで彼を大統領にしようとしている。

私はこの9ヶ月間、国会で野党の行動を見てきた。彼らは国のことも党のことも考えていない。私が深く尊敬する故金大中大統領が率いていた政党であることを考えると、これは実に恥ずべきことだ。金大統領は政敵との妥協の重要性を理解しており、1997年のアジア通貨危機という困難な時期を乗り越えた。

金大中大統領(当時)とのツーショット写真を示す印氏(©吉田賢司)

現在の共に民主党が行っていることは、金大中時代の精神や価値観と完全に対立している。多くの点で、彼らは韓国の民主主義にとって、全斗煥の権威主義時代よりも脅威である。なぜなら、共に民主党は民主主義を装っているものの、その実態は全く異なっているからだ。

李在明氏の控訴審判決が26日に下されるが、どう考えるか?

その判決は李氏の選挙法違反に関するものである。控訴裁判所が下級審の有罪判決を支持した場合、彼はその判決に異議を唱えると予想される。

しかし、これは全体像の一部に過ぎないことを忘れてはならない。李氏は京畿道知事時代に、金正恩との会談を成立させるため、北朝鮮に不正に多額の現金を流したとの容疑を受けている。これは単なる国内法違反にとどまらず、米国や国連の対北朝鮮制裁にも違反しており、日本にとっても重大な問題である。

にもかかわらず、野党内では誰一人として李氏を批判しない。これは非常に不健全だ。私たちの「国民の力」を見てみよう。意見の相違や内紛があるが、それは必ずしも悪いことではない。私自身を例にとってみても、私は西洋人でありながら与党の最高委員を務めている。また、北朝鮮脱北者のパク・チュングォン氏も我が党の議員である。多くの点で、私たちはリベラルな野党よりも進歩的で包括的だと言える。

尹政権下で主要問題となっている韓国の医療危機と医師ストライキをどう評価するか?

私は37年間医師をしてきた。現在の危機を見るにつけ、本当に残念で仕方ない。改革に向けた最初の交渉の際、医師には何の相談もなかった。医学生の数を[年間約2000人]増やすという決定は、少し過激だったのかもしれない。

だが、それは医学生の定数に関する問題だけではない。他にも多くの差し迫った問題に直面している。例えば、現在の診療報酬モデルには大幅な改革が必要である。産婦人科、胸部外科、脳神経外科、小児外科などリスクを伴う分野は、リスクが高い割に報酬が非常に低い。韓国の医療制度は根本的な見直しが不可欠である。

幸い、医学生の半数が現場に戻り、ストライキは終息に向かっているようだ。私は学生や医師たちに、制度の外でなく、制度の中で政府と積極的に関わるよう強くお願いしたい。

聞き手:吉田賢司(ジャーナリスト)

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