
箸置きやぐい飲みは笠間焼。益子焼や瀬戸焼の作品も。クリエイション・コムが手掛けるカプセルトイの一例=茨城県笠間市(重松明子撮影)
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わくわくしながら握りしめたコインを入れて、ガチャガチャ回す「カプセルトイ」。商品の主流は人気キャラクターグッズなどだが、最近は陶磁器を詰めたカプセルが大人の女性に人気だ。昭和40年に米国製の輸入マシンで始まった日本のカプセルトイは、今年還暦。アニメ、ミニチュア玩具など日本カルチャーとの親和性で独自の発展を遂げ、市場規模は昨年、過去最高の900億円に達した。直径65ミリ(標準サイズ)の球体が意外性に富んできた。
アナログの魅力、コロナ禍で出店加速
表情豊かなフクロウの箸置き。美しい色合いのぐい飲み…。茨城県の伝統産業、笠間焼のカプセルトイだ。手作り作品をワンコイン500円で楽しめる。
「100万円レベルの大作を手掛けている作家さんはじめ、5つの窯元にご参加いただいています」
笠間市内に本社があるカプセルトイの企画、販売、運用を行うクリエイション・コムの宮崎正木社長(69)がほほえんだ。令和4年に笠間焼シリーズを道の駅など地元を中心に50カ所に設置。3千個が1カ月で完売する人気となって引き合いを呼び、産地は栃木県の益子焼や愛知県の瀬戸焼にも広がった。同社の売り上げも飛躍的に伸びて昨年は年商64億3千万円、今年は80億円を見込んでいる。
平成9年に業界参入。16年前から、東京・上野の博物館や美術館の企画展に合わせた公式カプセルトイを手掛け、ゴッホやモネを目当てにレバーを夢中で回す大人の女性たちを目の当たりにした宮崎社長。「〝トイ〟から〝バラエティー〟へと多様化している。入るならなんでも入れてみたい。そして大人に満足してもらえる商品は? そうだ地元の伝統工芸を盛り上げよう」
陶磁器カプセルトイは、酒蔵や温泉地のご当地ぐい飲み、東京・浅草の相撲ショーの力士人形、大手ホームセンターでのペット用歯ブラシ立てなど、新商品が続々生まれている。
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「ガチャガチャ」は昭和63年にバンダイが商標登録しており一般名称はカプセルトイ。「ガチャガチャの経済学」(プレジデント社)の著書がある、一般社団法人日本ガチャガチャ協会の小野尾勝彦会長(59)によると、昨年のカプセルトイ市場は900億円を突破し前年から約100億円も伸長。マシンの設置台数は70万台以上という。
新型コロナウイルス禍が始まった5年前から、撤退した空き店舗などに専門店が大量出店。無人で人件費や電気代がかからないアナログな特性も後押しした。
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東京・新宿のシネシティ広場前にそびえる東急歌舞伎町タワー18階、ホテルグルーヴ新宿のロビーに2月、カプセルトイマシンが設置された。「ホテルの思い出をアートにして持ち帰る」をコンセプトに陶器マグネット8種を制作した。
新進の現代作家2人に実際に宿泊して描いてもらった絵柄を採用。東京を一望する客室、DJブース、パジャマ、洗濯室など、それぞれの視点や作風が47ミリ角の正方形に表現されている。美濃焼の廃材をアップサイクルした素材に、SDGs(持続可能な開発目標)に取り組むホテルのメッセージも込めた。五百円玉2枚、1回千円だ。
9割がインバウンド(訪日客)。「チェックアウトの際に余った小銭で遊ばれる方、ファッショナブルな雰囲気の30~40代女性に好まれている」と企画宣伝担当。

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東京・虎ノ門の飲食店街「小虎小路」で4月30日まで開催中の、能登半島地震復興支援「能登フードリバイバルフェア」にもカプセルトイが登場。能登の水産加工会社、スギヨが企画し、景品には石川県、九谷焼の箸置きも入る。
前出の宮崎社長は、東日本大震災被災地となった茨城県沿岸部の量販店再開に立ち合い、カプセルトイにめがけてゆく子供たちと、その様子に拍手する祖父母の姿を目に焼き付けた。
親子三代になじんだ日本の大衆文化。遊べる日常という幸せも、カプセルには詰まっているのだろう。
筆者:重松明子(産経新聞)
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2025年3月15日産経ニュース【近ごろ都に流行るもの】を転載しています
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