東京電力福島第1原発の処理水放出に伴い中国が実施した日本産水産物の輸入停止措置を巡り、日中両政府が解除に向けた具体的な手続きを始めることで合意した。
Hayashi China Japan seafood ban

農林水産物・食品の輸出拡大に向けた閣僚会議で、発言する林官房長官(中央)。右は小泉農相

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中国が不当な禁輸をやめるのは当然のことである。むしろ、その対応の遅さと不十分さには今後も厳しい目を向けねばなるまい。

東京電力福島第1原発の処理水放出に伴い中国が実施した日本産水産物の輸入停止措置を巡り、日中両政府が解除に向けた具体的な手続きを始めることで合意した。

ホタテやナマコなどの主要輸出先だった中国の禁輸で、苦境に立たされた日本の漁業関係者にとっては重要な一歩だ。輸出再開への期待も高まろう。

ただし、これで中国側の対日姿勢が改まったとみるわけにはいかない。再開の対象は37道府県であり、中国が処理水放出前から原発事故を理由に輸入を規制してきた福島県や茨城県などの10都県は含まれていない。

中国側には日本の輸出事業者の登録手続きがあり、実際に対中輸出を再開できるのは数カ月後とみられる。中国は政治的思惑で通関手続きなどを遅らせることが多く警戒を要しよう。

農林水産物・食品の輸出拡大に向けた閣僚会議=5月30日

石破茂政権は、中国に迅速かつ確実に約束を履行させるよう強い姿勢を貫くべきだ。規制が残る10都県についても即時撤廃を迫り続けてもらいたい。

対中輸出に際しては放射性物質の検査や産地証明書などが求められる。中国外務省は「中国の監督・管理の要求と食品安全基準を満たすことを日本が約束した」としているが、そもそも処理水を「核汚染水」と呼んだ中国の主張は科学的根拠に基づかない言いがかりである。

処理水放出は、国際原子力機関(IAEA)などが安全性を認めている。中国漁船も日本近海で操業しており、「国民の不安」を理由とする禁輸の論拠が破綻しているのは明らかだ。

Fukushima tritium
福島県相馬市の相馬原釜地方卸売市場

日中は昨年9月、対中輸出の着実な回復で合意していた。今回、ようやく手続き開始で一致したのはいかにも遅い。中国にはトランプ米政権に対抗するため日本への融和姿勢を示す思惑もあろうが、小出しで日本への歩み寄りをみせても、邦人拘束や尖閣諸島周辺での領海侵入などの諸懸案で何らの進展もない以上、対中警戒は解けまい。

中国の禁輸に伴い、日本では中国以外の輸出先を開拓する動きが進んだ。輸出が再開されても中国の政治リスクが減じるわけではない。水産業界は、輸出先の多様化を図る取り組みを引き続き強めるべきである。

2025年6月1日付産経新聞【主張】を転載しています

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