将軍家ゆかりの女性たちの遺品などを通して大奥の真の姿に迫る特別展「江戸☆大奥」が東京国立博物館で開催される。現代では復元が難しい、刺繡をぜいたくに施した搔取(打掛)や小袖の数々は必見。
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浮世絵師、楊洲周延が大奥をイメージして描いた錦絵「千代田大奥 御花見」(東京国立博物館蔵)

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小説やドラマなどで繰り返し描かれる大奥だが、実際の大奥で着用されていた衣装はドラマよりも豪奢(ごうしゃ)だった。将軍家ゆかりの女性たちの遺品などを通して大奥の真の姿に迫る特別展「江戸☆大奥」が7月19日から、「東京国立博物館」(上野)で開催される。現代では復元が難しい、刺繡(ししゅう)をぜいたくに施した搔取(かいどり)(打掛)や小袖の数々は必見だ。

権力や経済力の証し

大奥は、徳川将軍家の世継ぎを産み育てるため、御台所(みだいどころ)(正室)や側室らが起居した男子禁制の秘められた後宮だった。大奥の女性たちが着用した豪奢な衣装は、その権力や経済力の証しともいえ、正室は1日に5回もお召し替え(着替え)をしなければならなかったという。

本展では第13代将軍、家定の正室で武家出身の天璋院(篤姫)と第14代将軍、家茂(いえもち)の正室で皇族出身の静寛院宮(和宮)ゆかりの衣装も出品される。それらからは、2人の人柄や文化の違いも読み取れる。

また、大奥では「お狂言師」と呼ばれた女性の歌舞伎役者が歌舞伎を演じており、彼女らが着用した歌舞伎衣装も展示される。

大奥で演じられた歌舞伎の衣装「羽織・着付 萌黄繻子地的矢模様」(東京国立博物館蔵)

その中でも的に刺さった矢を大胆にデザインした「羽織・着付 萌黄繻子地的矢模様」は、きらびやかな金糸がふんだんに使われ、歌舞伎衣装にふさわしい華やかさで目を引く。

本物はドラマより豪華

東博の小山弓弦葉(ゆづるは)・調査研究課長は「ドラマに登場する大奥の女性たちは、こうした刺繡の施された打掛は着ていない。実際に当時の衣装を復元するとなると非常に衣装代がかかるので、実現できなかったのではないか。ぜひ当時の衣装の素晴らしさをご覧いただきたい」と話す。

贈答品の上に掛けて使用された「刺繡掛袱紗(ししゅうかけふくさ)」(重要文化財、奈良・興福(こんぶ)院蔵)にも、見事な刺繡が施されている。第5代将軍、綱吉が当時の刺繡技術の粋を凝らしてあつらえ、側室の瑞春院(お伝の方)に贈ったとされる。本展では全31枚が公開される。

贈答品の上に掛けて使用された「刺繡掛袱紗 浅葱繻子地杜若と撫子に酒器『長生』字模様」(重要文化財、奈良・興福院蔵)
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大奥の真実に迫る

本展は4章で構成され、第1章は「あこがれの大奥」。江戸末期から明治に活躍した浮世絵師の楊洲周延(ようしゅうちかのぶ)が第11代将軍、家斉(いえなり)の時代の大奥をイメージして描いたとされる錦絵「千代田の大奥」(40場面)や、大奥での出世コースを表した「奥奉公出世双六(すごろく)」などが展示される。

大奥奉公をすると良縁に恵まれるとして、裕福な町人の娘たちは大奥の女中を目指したという。将軍の目に留まれば「女氏(家柄)無くして玉の輿(こし)」という言葉通り、出自は問われなかった。

第2章「大奥の誕生と構造」では、大奥の礎を築いたといわれる春日局や絵島、瀧山といった御年寄(おとしより)(最高位の女中)らゆかりの品々のほか、「江戸城本丸大奥総地図」が展示される。大奥を含む実際の江戸城の構造がよく分かって興味深い。

第3章「ゆかりの品は語る」では御台所や世継ぎの生母、将軍家の姫君らの遺品を展示。第4章「大奥のくらし」では、将軍家の壮麗な婚礼調度をはじめ四季折々の豪華な衣装、かるたや御所人形といった遊び道具などを通して大奥の優雅な暮らしぶりを紹介する。

会期は9月21日まで。問い合わせは、ハローダイヤル(050-5541-8600)。

筆者:水沼啓子(産経新聞)

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