
混雑する羽田空港=2024年5月(松井英幸撮影)
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「有効な旅券(パスポート)を所持して入国審査を受ける」「在留資格の範囲内で活動し、在留期限が切れるまでに出国する」ということは、その制約や規制はさまざまあるものの、どこの国でも必ず定めている出入国管理上の基本的な約束事となっている。
入国の審査を行うのが日本では法務省が所管する「出入国在留管理庁」略して入管(庁)であり、入管行政の最高責任者は法務大臣である。また国家間の問題は外務省が関わるので、その外交関係に準じて必要なビザ(査証)を発給する。
入管の5つの業務
第一に、空港・海港での出入国審査。旅券・査証が有効で、入国目的がいずれかの在留資格に合致し、上陸を拒否すべき要注意人物、いわゆるブラックリストに載っていない人物であることを確認する。国が行う「水際対策」のための行政は、厚生労働省が行う検疫、次いで入管による入国審査、そして、財務省が行う税関から成っている。

第二に、日本国内に中長期に暮らす外国人の在留管理。就労、勉学、同居などの目的が継続しているか、新たに就職・婚姻した場合はその目的が、在留資格に当てはまっているかどうかを審査する。在留期間の更新や、在留資格を変更したりすることも、これに含まれる。
第三に、在留資格に当てはまらなくなった、あるいは刑事犯罪によって在留が継続できなくなった外国人に対し、法令の規定に沿って退去強制手続きをとる。そして例外的に人権・人道上の理由で在留特別許可を与えたり、いったん出国し一定期限が経過した後に改めて要件を整えて在留資格を取り直したうえで、入国するように案内することもある。
第四に、国際条約上の庇護を必要とする難民、あるいは人権上の保護を必要とする人々に対して、その蓋然性を認定して、当面の生活の場を提供する業務がある。
第五に、これは最近になって加わったものだが、日本人と外国人の住民同士の交流を深めて多文化共生社会の実現を目的とし、全国各地で構築されるよう諸事業を展開することだ。様々な目的で日本国内の地域社会で外国人が日常生活を送るようになった。その在留外国人を対象に国・地方自治体が連携して情報発信・相談案内を始めとする必要な支援を行っている。
第一から第三までは、どちらかといえば管理的なものだが、第四については国際社会の中で条約の枠組みにおいて人権保障の一翼を担うものである。第五については多様な支援を通し、外国人の受入環境を整備していくというものであり、これは新たな入管の業務となり、性格を異にしている。
日本に留まれない外国人
日本として、留まることを許容できない外国人は、以下4つに大別することができる。実際には、①又は②がほとんどを占めている。
- 不法入国、不法残留などの入管法違反者
- 刑事犯罪により有罪判決を受けるなどの刑罰法令違反者
- 国際的なテロリスト・犯罪組織の一員として指定されている者
- その他我が国の利益・公安に重大な影響を与えるような活動を行った者
①は、有効な旅券を持たない人、当初から密入国など上陸審査をすり抜けようとして入国した場合(不法入国・不法上陸)。付与された在留資格ではカバーされていない就労活動に従事した場合(資格外活動)、在留資格の付与にあわせて指定された在留期間が満了したにもかかわらず引き続き日本国内に留まっている場合(不法残留)が代表例である。
②は、薬物事犯や刑事事件などを犯したことにより、刑事訴訟において有罪判決を受けて処罰されたような人の入国である。

人手不足でも社会秩序維持
来日する外国人の多くは観光目的だが、ここで挙げた①~④の人たちは、当初から就労目的で来日し、不法であることを承知の上で就労活動を行っている人と考えられる。
①は、出入国管理の基本条件である。有効な旅券を持たず、あるいは決められた在留資格・在留期間が守られない状況で日本に在住することを、認めるわけにはいかない。
また、かつてあったように、日本のどこかの海岸に漂着したというようなケースもある。まずは体調を確認した上で、遭難に至った経緯や急病によるSOSの経緯などについて十分に聴き取りを行う。人道的配慮によって日本に当面留まることを認めることもあり得る。②と③に該当する人たちについて、これ以上の説明は必要ないだろう。
これら①~④のいずれか、退去強制事由に該当し、退去強制手続を受けたことにより、その最終局面で発付されるのが「退去強制令書」である。
他方、日本人の一部には、「国内の人手不足を補うためのマンパワーとして有難い存在だから、犯罪者のような取扱いをするのはけしからん」という声も聴く。もちろん、入管法違反は他人の生命・財産を傷つけるような刑事犯罪とは異なる。しかし、在留資格制度に反していることが明らかとなり、日本社会の秩序維持を図るためには、そのまま日本での在住を認めることはできない。退去強制手続、場合によっては刑事手続を経て国外に送還することによって対処するしかないのだ。
筆者:柳瀬房子(認定NPO法人、難民を助ける会前名誉会長)
■柳瀬房子(やなせ・ふさこ) 認定NPO法人、難民を助ける会前名誉会長。青山学院大学大学院総合文化政策学研究科修士課程修了。1979年にインドシナ難民を助ける会(現難民を助ける会)の設立準備に関わり、翌年、30歳で事務局長に就任。以来、半世紀近く日本の難民支援の草分けとして活動。2023年に退任後も、法務省難民審査参与員として尽力する。2024年12月に出版した『難民に冷たい国?ニッポン』(慶應義塾大学出版会)のほか、日本絵本賞読者賞を受賞した『サニーのおねがい 地雷ではなく花をください』(絵:葉祥明、自由国民社)など著書多数。
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