日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画が承認されることになった。条件として、日鉄は米政府と「国家安全保障協定」を締結した。
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米鉄鋼大手USスチールの工場=2024年10月、米ペンシルベニア州(AP=共同)

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日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画が承認されることになった。

買収承認の条件として、日鉄は米政府と「国家安全保障協定」を締結した。協定に基づき、USスチールの経営上の重要事項に拒否権を持つ「黄金株」を米政府に発行する。

黄金株は米政府に拒否権だけを付与する形をとり、米政府は出資しない。日鉄はUSスチールの普通株を100%保有し、完全子会社化できる。買収は速やかに成立する予定という。

日鉄による買収を前向きにアピールしていたUSスチールのウェブサイト(2025年4月15日のスクリーンショット)

世界の粗鋼生産量で過半を占める中国メーカーに対抗するには規模の拡大が欠かせない。同盟国である日米の鉄鋼メーカーが手を組む意義は経済安全保障上も大きい。米政府による承認を歓迎したい。

軍艦などの材料にもなる鉄鋼は安全保障の観点でも国内供給が不可欠とされ、米政府は鉄鋼を重要産業と位置づけて保護してきた。だが、長年の保護主義政策で技術革新や設備投資が滞り、国際競争力を低下させたことは否めない。

買収承認により、日鉄は令和10年までにUSスチールに約110億ドル(約1兆6千億円)を投資し、老朽化した設備の更新や製鉄所の新設などに充てる。求めていた完全子会社化が実現することで、電気自動車(EV)向け電磁鋼板など日鉄の先端技術の供与も進められるようになる。米鉄鋼産業の発展にもつながるはずだ。

最終的に買収が承認されることになったとはいえ、米政府の一連の対応は大きな禍根を残したといえる。

米鉄鋼大手USスチールの工場で開かれた集会で演説するトランプ大統領=5月、ペンシルベニア州(共同)

買収計画は令和5年12月に発表されたが、当時のバイデン米大統領、トランプ氏とも大統領選を見据え反対を表明した。バイデン氏は今年1月に安全保障上の懸念を理由に買収禁止を命じたが、同盟国の企業による買収が安全保障上の懸念になる根拠を明確に説明しなかった。不当な政治介入だったといわれても仕方がないだろう。

今回、買収承認の条件となった安保協定の詳細な内容や、黄金株による拒否権の範囲は明らかになっていない。

トランプ氏は黄金株について「米国が保有し大統領がコントロールする」と述べている。買収が最大の成果を上げるためにも、日鉄の経営判断を過度に縛ることがあってはならない。

2025年6月15日付産経新聞【主張】を転載しています

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