8年前に来日したパキスタン人のアフザル・ムハンマド・ビザードさんは、大阪府守口市立さつき学園夜間学級で学んだ後、大阪府立寝屋川高校定時制課程に進学した。「日本語がわかると、人と話せる。もっと勉強したい」。夜間中学時代に芽生えた思いは、今も学びの原動力となっている。
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毎日仕事を終えてから登校するビザードさん=大阪府寝屋川市(泰道光司撮影)

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8年前に来日したパキスタン人のアフザル・ムハンマド・ビザードさん(24)は、大阪府守口市立さつき学園夜間学級で学んだ後、大阪府立寝屋川高校定時制課程に進学した。最終年次の4年目に入り、来春卒業予定だ。「日本語がわかると、人と話せる。もっと勉強したい」。夜間中学時代に芽生えた思いは、今も学びの原動力となっている。

ビザードさんは毎日、仕事を終えてから登校する。5月初旬、校門で生徒を迎える先生たちにあいさつし、1限目の「情報」の授業が行われる教室へ向かった。

夜間中学ではひらがなやカタカナから学び始め、漢字にふりがながついたプリント教材などを用いて学習した。高校の教科書にふりがなはなく、難しい漢字や分からない言葉が出てくると戸惑ってしまうが、先生の話を聞きもらさないように熱心に耳を傾ける。その真剣な表情は、令和元年に初めて取材したときと変わらない。

「夜間中学のときより授業が難しい。頑張って勉強しないといけない」とビザードさんは言う。

担任の大寺康平先生(37)は「まじめで、周りに流されずに『学びに来ている』という姿勢がずっと継続しているのは本当にすごい」と感心する。

真剣な表情で「情報」の授業を受けるアフザル・ムハンマド・ビザードさん=大阪府寝屋川市(泰道光司撮影)

ビザードさんは3人兄弟の長男で、次男のアライブさん(22)と一緒に平成29年3月に来日した。福井県小浜市で自動車関連の会社を経営する父親の元で暮らしていたが、学齢期を過ぎたビザードさんが学べる学校は県内になかった。

母国では、ほとんど学校に通っていない。紛争地域で治安が悪く、通学には危険がつきまとう。先生の暴力も怖かった。

父親には「日本で教育を受けさせたい」という思いがあり、二人は父親と離れて30年4月、さつき学園夜間学級に入学した。

《読めない、書けない、話せないと心がしんどいです。勉強が大切だと思うようになりました》《私より年上の人が、毎日がんばって勉強しているのを見て、私もがんばりました》。ビザードさんは夜間中学時代の作文にそう綴った。

「日本語がわかるようになると、先生や友達と話ができる。もっと勉強したいと思うようになりました」と話す。

夜間中学でビザードさんは4年、アライブさんは5年学んだ後、ともに寝屋川高校定時制課程に進学した。昨年9月には三男のファルカードさん(16)が来日し、さつき学園夜間学級に入学した。

母校の夜間中学を訪れたビザードさん(右)。弟のファルカードさんの隣に座り、先生の話を母語のウルドゥー語で伝えることもあった=大阪府守口市(柿平博文撮影)

アライブさんは、父親の仕事を手伝いたいと昨年度末で高校を辞めて小浜市へ。ビザードさんは、日本語がまだあまり分からないファルカードさんの面倒をみながら、学業と仕事を両立させた多忙な日々を送る。

5月初めには、母校の夜間中学を訪問。《生徒会役員になって、みんなの前で話せるようになりました》と作文に記した通り、在校生を前に高校進学などについて助言した。

寝屋川高校定時制課程の1限目は午後6時5分から始まる。自席で授業開始を待つビザードさんに、教室に入ってきた二人の男子生徒が日本語で親しげに話しかけた。同じバドミントン部に所属する同級生だ。

「バドミントンは好きです。スポーツは何でも楽しい」とビザードさんは笑顔で言う。

バドミントンを始めたのは日本に来てからだ。小浜市で父親の仕事を手伝いながら週に1回、アライブさんと一緒にバドミントン教室に通った。守口市に移ってからも、体育の授業や市民体育館で開かれる週1回の教室で汗を流した。高校に入学して初めてクラブ活動に参加。練習は週に3回、授業が終わる午後9時20分から10時ごろまでと短時間だが、ビザードさんの実力は抜きん出ていた。

バドミントンの大会で優勝したビザードさん(右)と準優勝した弟のアライブさん=令和6年、大阪市内(提供写真)

「フォームも球筋も、本当にきれいなバドミントンをします。身体能力がすごい」と顧問の先生。大阪府内の定時制、通信制課程の高校生が参加する昨年度のバドミントン大会の決勝戦は、ビザードさんとアライブさんの兄弟対決となり、兄の意地を見せたビザードさんが優勝を飾った。近く今年度の大会があるという。

勉強やクラブ活動に励んだ高校生活は残り1年を切ったが、卒業後の進路は決まっていない。日本に来て学ぶことを知り、ビザードさんの世界は格段に広がった。「まだ勉強したい気持ちがあります」と話す小さな声は、仕事の道に進むことへの迷いを映し出しているようだ。夜間中学や高校で学んだことをどう生かすか、模索はもうしばらく続く。

(産経新聞)

2025年6月6日産経ニュース【夜間学校いま】を転載しています

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