Japan Whaling Interview with Seiji Ohsumi 002

 

 

半世紀以上にわたりクジラの研究に携わり、日本の捕鯨史の生き字引として知られる日本鯨類研究所(東京都中央区)の名誉顧問、大隅清治氏が11月2日、急逝した。89歳だった。大隅氏は生前、産経新聞と英語ニュース・オピニオンサイト「JAPAN Forward」とのインタビューで、今年7月に国際捕鯨委員会(IWC)を脱退した日本が進むべき道などについて熱く語っていた。大隅氏は、人間がしっかりとクジラ資源を管理しながら行う「持続捕鯨」こそが地球の環境にとって最良の選択肢だと強調。IWCの未来については、今後、その存在意義が無くなったことから潰れていくとの見方を示した。

 

インタビューの詳細は以下の通り。

 

 

-なぜ、クジラの研究に携わることになったのですか。

 

私は、クジラとは無縁の海なし県、群馬県出身の貧乏学生だったんです。現在の鯨類研の前身である研究所でアルバイトしたのがきっかけです。大学の卒業論文も、今でいうニタリクジラの繁殖についてでした。大学卒業後、就職も考えたのですが、結局、大学院に進学し、研究所でのアルバイトをやっていました。

 

-日本の鯨類研究はIWC脱退によって影響を受けるのか。

 

日本は、南極と北太平洋で調査捕鯨をやってきましたが、調査捕鯨をやらなくなることで今後、南極では科学的にいろいろと不都合なことが起きてくると思います。というのも、目視調査だけではやはり、調査が完結しません。繁殖の問題とか、捕獲して中をいろいろと調べてみないと分からないことはあるんです。いま、オーストラリアなどは独自の調査をしていますが、規模が小さく、南極全体をカバーするものではないんです。北太平洋では、日本の捕鯨再開によって一部はカバーされると思います。日本は、IWCから脱退しましたが、IWCの調査チームには日本の船を提供しています。日本は、IWCから脱退しても、IWCの科学調査に貢献するということなんです。

 

-日本は脱退後もIWCに協力するのですか。

 

鯨類研究には、クジラを捕らなければ分からないこともある一方で、捕らなくてもできることがあります。たとえば、ホエール・ウォッチングや水族館での鯨類の飼育、そして海上交通ではクジラとの衝突防止など、座礁や混獲など、さまざまな問題があり、そうした問題をカバーできるよう、広くとらえた鯨類研究が発展することを期待しています。-日本の鯨類研究はIWC脱退後も、孤立しないということですか。現に、今年もIWC科学委員会には多くの日本人研究者が参加していますし、北太平洋の共同調査にも参画します。南極海の目視調査にも、日本は調査船派遣を予定しています。調査にいちばんいいのが、日本の捕鯨船です。決して日本がIWCから離れるということはないんですね。少なくともIWCの科学委員会は、日本を評価し、日本の参画に期待をしているのではないですか。日本は期待されているし、これからも協力して調査を積極的にやっていくことになります。

 

-日本は度々、批判にさらされる。しかし、世界では、ノルウェーやデンマークなど、捕鯨国はあります。なぜ、日本はここまで批判されるのですか。

 

欧米では特に、黄色人種の日本が経済発展を遂げていることへのやっかみのようなものがあるのかもしれません。欧米で民族によって差別されているのを見ると、そういうものがあるのかな、と思うことがあります。私は幼年学校に通っていたせいか、欧米に対する敵愾心もあるのかもしれませんが、そこには民族の問題があるのかもしれません。

 

-商業捕鯨が始まりましたが。

 

私は、実は商業捕鯨という言葉が好きではないのです。誤解を与えていると思います。商業主義でクジラを捕る、お金儲けのためにやっているかのようなイメージを、反捕鯨の人たちはつくっている。しかし、そうではないんです。クジラという大切な資源を潰さないように持続的に利用するというのがこれからの捕鯨なのです。人間が管理することが必要なのです。捕鯨を止めれば、それですべての問題が解決するということではないのです。だから、持続捕鯨と言った方が的確なのではないかと思います。決して、商業捕鯨ではないのだということです。これからは利潤を追求するような捕鯨ではないと思います。かつて欧米は、鯨油をとるために本当に無駄な捕鯨をしていました。これからはそんなことはあり得ないのではないですか。商業捕鯨の復活という表現で言われますが、私はしっくりと来ないのです。日本政府まで、商業捕鯨の再開という言い方をしている。私は違うと思います。誤ったイメージを植え付けてしまいます。

 

-なるほど。

 

ぜひ、持続捕鯨という言葉を広めましょう。お願いします。

 

-欧米の中には、クジラを神聖視する向きもあるが。

 

私は、クジラを魚だと思っています。私は、クジラを知性の高いほ乳類だという人たちの言うことが理解できないですね。私たちの理解とは合いません。私は、だいぶ前ですが、ブエノスアイレスでの会議に参加した際、友人の案内で郊外をドライブしました。パンパという草原地帯に、牛がポツンポツンといるんです。牧場主は、増えた分を間引き、そうやって暮らしていると聞きました。いまの捕鯨は、まさに海に放し飼いされた牛ではないかと思うんです。クジラも、海のプランクトンや魚を食べて増えていく。適当な数を間引いているのが現在の捕鯨ではないかと思うんですよ。以来、私は、「クジラは海に放し飼いされた牛である」と言っています。畜舎は動物を狭いところに閉じ込め、最後は全頭殺される運命にありますが、放牧された牛や捕鯨されるクジラは、普段は自由に暮らしていてたまたま運の悪い奴が、交通事故に遭うような確率で人間に捕まるわけです。圧倒的に大多数のクジラは、その一生をまっとうするのです。果たしてどちらが幸せか、ということですよ。僕は、自由なクジラの方が圧倒的に幸せだと思います。

 

-だからこそ、クジラの数だったり、その生態だったりをちゃんと調べなければならないということですね。

 

そうですね。エゾシカだって今、増えすぎてコントロールしなければならなくなっているでしょう。増えた分を間引いて利用していくということが、環境を破壊しないための最良の方法なのです。クジラにしても牛の放牧にしても、増えた分は間引きながら、人間が管理していくということが重要なのです。捕鯨は、自然の生産力を活用するひとつの手段であるということなのです。

 

-もし、人間が管理せずに自然に任せていたらどうなりますか。

 

どうでしょう。よく言われるのは、クジラは大量の魚を食べるので、漁業に影響が出るということ、そして、死んだクジラが浜に打ち上げられた後の処理でしょうか。クジラが増えていることもあり、最近、打ち上げられるクジラの数が多くなっているのですが、クジラはからだが大きいのでその処理が大変なのです。

 

-そもそも、捕鯨を管理するためにIWCができたのではないですか。

 

そうなんです。しかし、反捕鯨国がIWCに入ってきてねじ曲がってしまった。

 

-IWCは、これからどうなるんでしょうか。

 

つぶれるんじゃないですか。反捕鯨団体となったわけですから、IWCの存在意義はなくなりましたから。

 

-世界の人へのメッセージは?

 

クジラを食べましょう、ということでしょうか。死ぬために飼われている豚や牛に比べたら、自由に生きているクジラの方がずっと幸せであるように、私には思えますが、皆さんはどうでしょうか。

 

聞き手:内藤泰朗(JAPAN Forward編集長)

 

■大隅清治
享年89歳。昭和5年、群馬県生まれ。幼年学校49期。ニタリクジラ研究から鯨類研究の世界に。東京大学大学院博士課程修了後、昭和40年代から国際捕鯨委員会(IWC)会合に連続して出席、鯨類学研究の発展に尽力した。平成7年から16年まで日本鯨類研究所理事長。平成14年に勲四等瑞宝章、18年にはノルウェー王国功労勲章を受章した。著書に、『クジラは昔 陸を歩いていた:史上最大の動物の神秘』(PHP文庫)、『クジラと日本人』(岩波新書)、『クジラを追って半世紀-新捕鯨時代への提言-』(成山堂書店)など。

 

 

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