
長寿を祈る儀式に出席したダライ・ラマ14世=7月5日、インド・ダラムサラ(公式ユーチューブチャンネルから、共同)
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チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ法王(14世)が、後継者の15世を選ぶ方法について、自身の死去後に生まれ変わりを探す「輪廻転生(りんねてんしょう)」を継続すると表明した。
14世は「他の誰にもこの件に干渉する権限はない」とし、中国共産党政権を強く牽制(けんせい)した。
中国は自らが推す人物でなければ「ダライ・ラマ15世」とは認めない方針だ。だが、チベットの人々が正統性のない「偽ダライ・ラマ」を仰ぐはずがない。中国は非人道的な同化政策を廃止し、チベットの宗教や文化を尊重すべきである。
6日に90歳となったダライ・ラマ14世は、2歳で当時のチベット政府に13世の生まれ変わりと認定され、1940年に4歳で即位した。

しかしチベットは51年以降、中国人民解放軍に制圧され、各地で起きた抵抗運動もことごとく弾圧された。このため14世は59年、古都ラサを脱出し、インド北部ダラムサラに亡命政府を樹立した。
65年に中国がラサを区都とするチベット自治区を設立してから今年で60年となる。この間、何が起きたのか。
中国は漢民族を大量に移住させるとともに、チベットから独自の文化や宗教を奪う同化政策を進めてきた。その結果、仏教寺院などから14世の肖像画や写真が撤去され、代わりに習近平国家主席の肖像画や写真などが掲げられた。
寺院には治安要員が配備され、監視カメラも無数に設置されている。チベットの人々は徹底的に管理された、恐怖下の信仰を強いられているのだ。
ダライ・ラマは観音菩薩の化身とされるが、単なる宗教的指導者ではない。17世紀以降、チベットの最高権威者として政教一致の体制を率いてきた歴史がある。

どんなに禁止されても、庶民の家庭にはダライ・ラマの肖像画や写真が飾られている。今も人々の精神的支柱であり続けている現実から、中国は目をそらしてはならない。
14世は亡命後、非暴力主義を貫きつつも、中国による弾圧の実態などを世界に発信してきた。89年には世界平和や宗教、文化への貢献が評価され、ノーベル平和賞を受賞した。
輪廻転生に関する今回の表明についても、日本を含む国際社会は14世を支持し、中国の介入を許すべきではない。
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2025年7月11日付産経新聞【主張】を転載しています
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