京都の中心地に知る人ぞ知る庶民的な酒場天国がある。大衆酒場の名店と小粋な隠れ路地で「昼からはしご酒」が楽しめる裏寺界隈だ。
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狭い路地に新旧の味わい深い店が軒を連ねる「柳小路」=京都市中京区

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京料理やお座敷といった一見さんお断りのイメージがある京都だが、その中心地に知る人ぞ知る庶民的な酒場天国がある。大衆酒場の名店と小粋な隠れ路地で「昼からはしご酒」が楽しめる裏寺界隈(かいわい)だ。

かつては暗く怪しげな歓楽街

阪急京都線終着駅の京都河原町駅から徒歩1分。ファッション専門店ビル「河原町オーパ」の裏手側に、「しのぶ会館」という3階建ての雑居飲食店ビルがある。その1階が昼飲みの聖地ともいわれる大衆居酒屋「たつみ」だ。

四周のカウンターは一部が立ち飲みで、奥にテーブル席。頭上の黄や白の短冊に多彩なつまみや酒の名がびっしり並ぶ。昼からの営業は、昭和43年の開業当時からだという。

昼から夜までにぎわう大衆居酒屋「たつみ」

「このあたりは私が子供の頃は女性が一人で歩けないような雰囲気がありました」と話すのは、たつみの「社長の娘」で料理担当の上田みどりさん(50)。オーパの敷地はかつて寺だったため一帯は裏寺と呼ばれ、暗く怪しげな歓楽街だったという。

上田さんの祖父はここで銭湯「忍冬(しのぶ)湯」を営んでいたが、43年に京都・伏見の藤岡酒造のたる酒を出す「万長酒場」に業態を変更した。串かつと土手焼きの2種類だけだった料理のメニューはどんどん増えて今に至る。

「昼は近所のおじいさん、夕方はサラリーマンが来る店でしたが、近年は客層の幅が広くなり、昼飲みの女性も増えている」と上田さんは変化を感じている。

学生たちの仕業

たつみのすぐ近くにある「柳小路」は、外国人観光客でにぎわう新京極商店街や河原町通から一本中に入った隠れ路地だ。

かつて飲食店街としてにぎわったが平成になって衰退。近年は、足元を石畳風に整備するなどして新たな店も入り、小粋な通りに生まれ変わった。

今一番の人気店は「柳小路TAKA」。イタリアの日本料理店出身の凄腕シェフによる本格的な料理が立ち飲みで気軽に楽しめるとあって、いつもたくさんの人が並んでいる。

その対面は大正時代から続く居酒屋「静(しずか)」。古民家のような壁や柱は隅々まで落書きで埋め尽くされている。京都の学生たちの長年にわたる仕業だ。

居酒屋「静」の座敷。学生らの落書きにも年季が入っている

京都大の学生時代によく飲みに来て、同窓の旧友とともに60年ぶりに再来したという東京在住の男性は「ここまでの落書きはなかったがほかは何も変わっていない」とうれしそうだ。

「にくじゃが」「ほうれん草」「野菜天」といったメニューが各400~600円ほど。シンプルな料理が瓶ビールや小瓶の日本酒によく合う。

都会の喧噪忘れ

「寡黙な店主・松本さんの打つそばと、そばの前に食べる酒肴(しゅこう)の一品がとてもおいしい。数席しかないカウンター席にすべりこめたらラッキーです」

本紙の京都、滋賀版でイラスト付きエッセー「ほろよい余話」を連載する〝日本酒ガール〟松浦すみれさんは居酒屋「そば 酒 まつもと」を推す。

〝日本酒ガール〟松浦すみれさん(右)が通う「そば 酒 まつもと」。寡黙な店主が営む燗酒の名店だ

「うちは燗酒の店なので」と入店客に毎度断りを入れるほど、燗酒に特化した日本酒が味わえるのも貴重だと松浦さん。燗酒の杯を重ねてほっこりした気分に浸っていると、そこが都会であることなどすっかり忘れてしまう。

昔、柳小路は寺の境内地で、そこに棲(す)んでいたタヌキを供養したとされる八兵衛明神が中心に鎮座。柳の立つ通りに新旧十数店が軒を連ねていて風情がある。

松浦さんは「昔から穴場的に通ってきたが、近年すこしずつバレ始めてる」と話していた。

筆者:川西健士郎(産経新聞)

2025年12月27日産経ニュース【わが町酒場 知る人ぞ知る】を転載しています

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