山々に囲まれたダム湖にぽっかりと浮かんでいるようなたたずまいの静岡県川根本町の。「奥大井湖上駅」。SL運転で知られる大井川鉄道で屈指の秘境駅として知られる。
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展望所から望む奥大井湖上駅。ダム湖の半島の先端に造られた

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山々に囲まれたダム湖にぽっかりと浮かんでいるようなたたずまいの「奥大井湖上駅」(静岡県川根本町)。SL運転で知られる大井川鉄道で屈指の秘境駅として知られる。列車に乗って駅を訪れるだけではなく、展望台から駅を見下ろし、ここだけの絶景も楽しみたい。バスを使えば、効率よく、それが実現できる。

バスを利用

出発は大井川鉄道の千頭駅。本線と奥大井湖上駅がある井川線の接続駅だが、令和4年の台風被害で本線の川根温泉笹間渡-千頭間は不通となっているため、列車では到達することができないので、車で千頭に向かうことにした。

まず乗るのは閑蔵線バスだ。気をつけたいのは1日1往復で、千頭駅前発は11時に出る1本だけだ。降車する湖上入口バス停まで23分。ここから徒歩2分で奥大井湖上駅の展望所にたどり着ける。ダム湖である接岨湖をレインボーブリッジという赤い橋が貫き、突き出た半島の先端を通る場所に駅がつくられている。透き通った空気の中、季節や時間帯でさまざまな表情を見せてくれる。

レインボーブリッジは一部、歩行者が通行できるようになっている

下りも難所

ここから眼下の駅へ徒歩で向かう。下りとはいえ、急な坂や階段があり、なかなかの難所だ。駅からバス停までの上りとなるとさらにきついだろう。千頭駅前バス停に「大きなお荷物をお持ちの場合や小さなお子様をお連れの場合には、かなり大変ですので、あまりお勧めできません」との注意書きがあったことを思い出した。先に列車で駅を訪れ、バスで千頭へ帰るスケジュールも可能だが、バス→列車のコースをお勧めしたい。駅の駐車場が別にあるが、坂道をたどるのは同じだ。

奥大井湖上駅のホーム。駅名標やベンチが設置されている

山道を下り切り、線路に沿って橋を渡り、約20分で駅に到着。幸せを呼ぶ鐘や営業日限定のカフェなどがあり、寂しい雰囲気はない。対岸には鉄道の鉄橋が見える。平成2年に奥大井湖上駅が開業する前に列車が走っていた旧線跡だ。大井川に長島ダムを建設することになり、井川線の一部は水没し、奥大井湖上駅などの新駅をたどる新線が建設されたのだ。

奥大井湖上駅に到着する千頭行き列車

国内唯一のアプト式

新線切り替えでは急勾配が発生。これを克服するため、線路の真ん中に敷かれた「ラックレール」という歯形のレールと機関車の歯車をかみ合わせる「アプト式」がアプトいちしろ駅-長島ダム駅間で採用された。12時18分発の千頭行きがやってきた。それに乗り込み、国内で「ここだけ」の区間へ向かおう。

奥大井湖上を出た列車は長島ダム駅に到着。次のアプトいちしろ駅まで90パーミルの急な下りとなる。千メートル走って90メートル下るという、国内トップの勾配だ。

専用機関車を連結

列車の前面に近づいてきたのはアプト式専用の電気機関車だ。アプト式の区間は電化されている。列車を降りて連結作業を見学できる。これまで客車を引いていた華奢(きゃしゃ)なディーゼル機関車と違い、パワフルな外観が印象的。作業が完了すると、ゆっくりと発車した。左手には巨大な長島ダム。床下からは「ギシギシ」と歯車がかみ合っているであろう音が聞こえる。

長島ダム駅に到着すると、先頭にアプト式専用の電気機関車が連結される

アプトいちしろ駅に着くと電気機関車を切り離す作業。線路に敷いているラックレールを見ると力強さを感じる。列車は再び通常運転。千頭には13時19分に到着した。バスで出てから2時間20分ほどで絶景駅を眺め、アプト式の区間に乗車することができた。

アプトいちしろ駅のラックレール。歯形のレールと機関車の歯車がかみ合う

千頭駅の構内には不通による線路の分断で取り残された元南海の車両が留置されていた。塗装がはげかけ、痛々しい姿だ。本線の不通が解消されれば、車両基地がある新金谷に列車で向かい、SLなどの名物車両をぜひ見学したい。

筆者:鮫島敬三(産経新聞)

2025年9月15日産経ニュース【ここだけの駅】を転載しています

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