世界共通の課題である「食と栄養」。国際医療福祉大学はこのほど、食品産業2社と連携して講座を開設、科学的根拠に基づき、研究成果を社会に還元することを目指す。
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赤坂キャンパスで、講座について説明する山本尚子副学長(杉浦美香撮影)

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食と栄養、そして健康向上を目指し、国際医療福祉大学は「味の素」と「明治」と連携した講座を開設した。エビデンスに基づく食の研究を担う人材を育成するとともに、日本発の研究成果を発信し、栄養政策や評価手法の議論に貢献する。

東京栄養サミットの3つの軸

世界有数の長寿国である日本。その健康を支えているのは日本の医療制度や公衆衛生、そして「食と栄養」だ。山本尚子副学長は、講座を設けた背景として、2021年に日本がホストした東京栄養サミット(東京サミット)で示された3つの軸を振り返った。

「一つ目が、企業の開発能力と新しい価値を生み出す力を活用し、消費者によりよい選択肢を広げることだ」

昨年行われた社会人講座。多くの企業が参加した(杉浦美香撮影)

これまでの世界の健康増進政策は、高塩分や糖分の食品に課税をかけ、消費を抑制するなど規制的なアプローチが主流だった。しかし、東京サミットでは、企業による製品開発や技術力を栄養改善に生かす方向に舵が切られたという。

アジアに注目

2つ目がアジアだ。これまで研究や論文の言語が英語であることなどから、データは欧米に偏りがちだった。しかし、山本氏は「アジアの人々の健康と食は欧米とは異なる。文化的背景や地域特性を踏まえた研究が必要だ」と指摘する。日本で開催されたからこそこうした視点が強く浮かび上がったという。

「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」

3つ目は、日本が推進している「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」だ。東京サミットでは、「保健医療だけではなく、予防や栄養、健康に関わるあらゆる分野で、全ての人が公平にアクセスでき、自分の健康を守ることができる社会を作る」という理念が掲げられた。

栄養サミットは、オリンピックに合わせ開催される。東京の次、2025年に開かれたパリの会議で、東京で打ち出された3つの軸のさらなる発展が期待されていたが、残念ながらその方向には進まなかったという。超加工食品が問題視され、食品産業との関係をどう位置付けるかが論点となった。また、アジアの視点からも離れてしまった。

企業との連携講座開設へ

東京サミットの3本の軸を世界に展開するために浮かびあがったのが「科学的なエビデンスの必要性」だった。「日本の健康長寿に、日本の食と栄養がどう影響しているのかといったエビデンスが十分とはいえない」と山本氏。

昨年の社会人講座に参加した企業や教授陣ら(杉浦美香撮影)

講座では、この研究を提供できる人材を育て、日本人にとっての健康的な食を明らかにして、研究成果を発信する。この目的に共感したのが。味の素と明治だった。人材育成と成果を共有し、社会変革(実装)につなげる5年間のプロジェクトが2025年、スタート。1年のプレ社会人講座を経て今年4月から、大学院で講義をスタートさせる。

ジャンクフードでひとくくりにしない

近年、グローバル食品企業が太平洋の島々に進出、水より安い甘い清涼飲料が出回り、島で超肥満児が増えたり、ハンバーガーやポテトチップスに依存し、栄養不足や肥満を招いたりする問題が指摘されている。

ハンバーガー(資料)。栄養バランスが悪いとされがちだ(杉浦美香撮影)

しかし、山本氏は「加工食品全てを悪いものとして単純化するのは適切ではない」と指摘する。議論すべきは、食品環境や食事全体のバランスとなる。

例えば、カップ麺はジャンクフードにラベリングされがちだが、簡易で便利で、災害時には重要な非常食にもなる。 大事なのは食べ方であり、食品評価の際には多面的な視点が必要だ。

欧米が目指す食の考え方への疑問

欧米で策定されたガイドラインがそのまま日本を含むアジアに適合するわけではないという。 その一つが、エネルギー制限だ。ニューイングランド・メディシン・ジャーナルに掲載されたコホート研究で、肥満の指標であるBMIが、25超え(肥満)で男性6割以上、女性は5割近かったが、BMI20未満(やせ)は男1.4%、女8%だった。これに対して、日本、韓国、中国3カ国で行った研究では、肥満のBMI27.5超は男女合わせ12%だったが、BMI20以下は20%に達していた。

(同大提供資料)

「欧米では肥満対策が重要課題だ。一方、日本では若年女性の、アジアでは高齢者の低栄養なども課題になっている」といい、肥満と低栄養が併存する「栄養の二重負荷」に対応する必要があるという。

「欧米の栄養、健康の提言が日本にもあてはまるのか、データ分析によって検証する必要がある。塩分など日本特有の栄養課題を踏まえた議論が必要」と山本氏は指摘する。

欧米基準に基づいた評価への疑問

オランダの国際NGOが行っている「ATNI(Access to Nutrition Initiave)」というグローバル企業評価でも、欧米中心の評価軸が日本やアジアに適用されてしまう。例えば、日本の家庭で炒め物などに使われる調味料の評価は、料理ではなく、原液のまま分析され、塩分が高いと判断されてしまう。カップ麺も同様だ。実際にはお湯を注いで食べるが、粉末スープと麺だけが分析対象になっている。

山本氏は「こうした評価に基づいて機関投資家が投資判断を行うと、日本の企業が不利になり、日本企業によるより良い食と健康に向けた努力、イノベーションにマイナスの影響を与えかねない」と懸念を示した。

日本の食文化を踏まえた議論へ

一汁三菜を基本とする日本の食事は多彩だ。和食は2013年、ユネスコの無形文化遺産にも登録された。講座では、日本の食文化や食事パターンを踏まえた新しい栄養評価の考え方を研究し、次世代の栄養プロファイリングの提案を目指す。また、社会人公開講座を今年も実施。教育と啓発、そして世界の栄養改善のために、エビデンスに基づいた日本型の栄養戦略を発信する。

筆者:杉浦美香(Japan 2 Earth編集長)

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