豪州で開催中のサッカー女子アジア・カップに出場したイラン代表選手が試合で国歌を歌わず、亡命を希望した後、一部選手らが翻意し、帰国の途についた。翻意して帰国した選手らの安全は保証されているのか、懸念は募る。
Iranian athletes leave Australia EAWFQLLT45LSHDENDTX62YW5UU

経由地のマレーシアを出国するため、空港に着いたイランのサッカー女子代表選手団=3月16日、クアラルンプール(ロイター=共同)

This post is also available in: English

不可解な展開である。オーストラリアで開催中のサッカー女子アジア・カップに出場したイラン代表選手が試合で国歌を歌わず、亡命を希望した。ところがその後、一部選手らが翻意し、帰国の途についた。望んだ帰国とは思えない。

イランは言論や表現の自由が保障された社会ではない。選手らが国歌を歌わなかったことについて、イラン国営メディアなどは「母国の体制への抗議」だと批判していた。

選手や家族らに危害が及ぶ恐れはなかったのか。翻意して帰国した選手らの安全は保証されているのか。懸念は募る。

サッカー女子アジア・カップのイラン―韓国戦で、応援する熱狂的なイランサポーター=3月2日(ロイター)

イラン当局は、亡命か帰国かを問わず選手本人や家族を弾圧してはならない。国際社会やアジア・サッカー連盟(AFC)などのスポーツ界はイランが安全を確約するよう求め、履行を監視しなければなるまい。

米国、イスラエルとイランとの交戦は、選手らの豪州到着後に始まった。国歌を歌わなかったのは2日の韓国戦で、その直前にはイランの最高指導者ハメネイ師が殺害されていた。

イランでは国家に忠誠を示す行為として国際試合などでの国歌斉唱が求められている。母国の戦時に斉唱を拒否したことは相当な決断だったはずだ。国営テレビの司会者は「裏切り者は厳しい制裁を受けるべきだ」と選手を激しく非難した。

豪政府は亡命を希望したとして選手6人とスタッフ1人に人道ビザ(査証)を発給した。うち5人が帰国へと翻意した。

オーストラリアのバーク内相(右から3人目)と、同国への亡命を申請したサッカー女子イラン代表の5選手=豪州内務省が公開、日付と場所は非公表(ロイター)

英紙は、亡命を支援した在豪イラン人の話として「亡命希望者」の中に体制側のメッセージを伝える人物がおり、帰国を決断させるため、家族からの音声メッセージを選手に聞かせた疑いがあると報じた。選手の家族も体制側から脅迫された疑いがあるという。豪政府は、この報道内容を確認していない。

イラン当局は昨年12月から今年1月にかけて全土で起こった反政府デモを徹底弾圧した。2023年にノーベル平和賞を受賞した人権活動家ナルゲス・モハンマディさんへの迫害などでも国際社会の非難を浴びた。

イランではNHKのテヘラン支局長を含む邦人2人も拘束されている。日本政府は、邦人の即時解放を求めるとともに、弾圧と闘う人々や団体への国際支援に努めるべきである。

2026年3月19日付産経新聞【主張】を転載しています

This post is also available in: English

コメントを残す