Japan Set to Deploy MSDF to Middle East 003

 

安全保障関連法の施行から3月29日で4年。日本が攻撃された際に米軍が防衛義務を負うことから「片務的」とされ続けてきた日米同盟は、安保法で可能になった米艦艇・米航空機防護などの新任務により、互いに義務を負う双務性に一歩近づいた。海外での邦人保護や平和貢献でも積極的な役割を果たせるようになった。一方、現行憲法の下では今も制約が大きく、安保法の限界も浮き彫りになってきた。

 

 

武器使った邦人救出が可能に

 

「通してください」。政情が不安定化した「ある国」に派遣された十数人の陸上自衛隊員が、日本人学校を取り囲む暴徒から生徒、教員らを守るため説得する。それでも引かない暴徒に対し、警告のトーンが上がる。

 

「今すぐ妨害をやめなさい!」。隊員たちは小銃を携え、大音量発生装置で警告音を発しながら暴徒に迫り、排除した。

 

2月29日、タイ中部のウタパオ海軍航空基地。多国間軍事演習「コブラゴールド」の一環として日米両国などが実施した邦人保護訓練の一コマだ。陸自隊員は日本人生徒役を車で空港に輸送。自衛隊、米軍などが警護する中、航空自衛隊C130輸送機で安全な場所へと移した。非公開部分では、小銃で警告射撃も行ったという。

 

安保法施行で武器を使った邦人救出が可能になった。これを受け、自衛隊が長年参加してきた同演習に邦人保護訓練が加わった。ただ、実際に実行したことはない。

 

一方、平時からの日米連携を強化する新任務は実行に移されている。代表的なものが「武器等防護」に基づき、日本を防衛する活動を行う他国軍の艦艇や航空機を自衛隊が守れるようになったことだ。

 

初のケースは施行から1年以上経過した平成29年5月1日だった。米海軍の補給艦が房総半島沖周辺を航行しているところに海上自衛隊最大級の護衛艦「いずも」が合流し、並走した。米補給艦は北朝鮮の弾道ミサイル発射の警戒監視にあたる米イージス艦への補給に赴く途上だった。

 

自衛隊は米艦や米航空機の防護を29年に2件、30年に16件、昨年は14件実施した。いずれも米軍が警戒監視・情報収集の活動などを行っているときだった。

 

日本海などで弾道ミサイルの警戒監視にあたっている米艦艇への給油や食料提供も可能になった。以前は自衛隊法の規定で共同訓練や海外の災害救援活動の時しかできず、米艦艇は燃料補給のために基地に戻ることもあったが、その頻度を減らし警戒態勢の隙を狭めることができる。

 

 

「片務的」同盟関係に変化

 

「日本は変わった」

 

26~31年に統合幕僚長を務めた河野克俊氏は安保法施行後、米軍幹部にこう感謝されたという。河野氏は「平時でも米軍の航空機や艦艇を防護できるようになったことで、双務性に近づいた」と意義を強調する。

 

安保法の柱は、集団的自衛権の限定的な行使を認めたことだ。

 

人工衛星技術の進展で、防衛領域は宇宙へと広がっている。河野太郎防衛相は、集団的自衛権を発動できる「存立危機事態」か否かの判断について「地球上と宇宙で違うかといえば、それは違わない」として、宇宙空間における他国への攻撃についても集団的自衛権行使が可能だとの認識を示している。日本が攻撃されたら米軍が助ける。代わりに日本は在日米軍基地を提供するが、米軍を助ける義務はない。安保法は、こうした片務的と指摘された同盟関係に変化をもたらした。

 

自衛隊の国際貢献の幅も広がった。新たな任務として、国連が統括していない人道復興などの支援「国際連携平和安全活動」が加わり、国連平和維持活動(PKO)でなくても一定の条件を満たせば自衛隊を海外派遣できるようになった。

 

 

積極的平和主義を推進

 

政府は昨年4月、イスラエル、エジプト両軍の停戦維持を監視する「多国籍軍・監視団(MFO)」司令部に陸自幹部2人を送り込んでいる。エジプト・シナイ半島南部のMFO司令部で、両国間の連絡業務にあたる。当初は昨年11月末までの派遣計画だったが、政府は1年間の延長を閣議決定した。その際、菅義偉官房長官は記者会見でこう強調した。

 

「わが国の積極的平和主義に基づく具体例の一つである」

 

PKOの現場で、離れた場所にいる国連職員らが襲撃されたときに救出に向かう「駆け付け警護」が可能になった。PKOでは同じ宿営地内に複数の国の部隊が同居するケースが多い。以前、自衛隊は日本の拠点周辺しか守れなかったが、安保法により他国軍と協力して「共同防護」も可能になった。

 

政府は28年11月、アフリカ・南スーダンで活動していたPKO派遣部隊に「駆け付け警護」と「宿営地の共同防護」の任務を追加付与した。だが、派遣部隊はいずれも実行に移すことなく、半年後の29年5月に撤収している。

 

筆者:田中一世、杉本康士(産経新聞)

 

 

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