簡素といってもよいかもしれない。部屋は静かなたたずまいを見せていた。
上皇さまが皇太子時代に終戦の玉音放送を聞かれた「御座所(ござしょ)」が栃木県益子町に残る。日光市湯元にあった「旧南間(なんま)ホテル別館」を移築、今年2月に新しい宿泊施設に改修された。
昭和20年7月、上皇さまは戦局の悪化に伴い、日光田母沢(たもざわ)御用邸(日光市)から奥日光湯元温泉の南間ホテルに疎開された。
「小さな温泉街の雰囲気が一変した」
旧南間ホテル隣の旅館「湯の家」の後藤昌弘さん(86)は振り返る。兵士の詰め所になった旅館もあり、後藤さんの祖父が経営していた旅館も兵士らの食事作りなどに追われた。
後藤さんは、上皇さまが学習院初等科の制服姿で同級生と湯ノ湖の湖畔を通われていたのを思い出す。地元の人たちは緊張しながら見守っていたという。
南間ホテル別館は昭和48年に益子町の窯元が譲り受けて移築。平成28年、町に寄贈された。
同町の担当者は「上皇さまの平和へのお気持ちを次世代へつないでいく場所にしていきたい」と語る。
以テ万世ノ為ニ太平ヲ開カムト欲ス-。
玉音放送には、未来のため平和の実現を図ろうという一節があった。公募で決まった施設名は「ましこ悠和館」。悠久の平和を願う思いが込められている。
筆者:鴨川一也(産経新聞写真報道局)
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