10月1日の中国の国慶節にあわせて香港では多くの市民が無言の抗議活動を行い、香港国家安全維持法(国安法)の施行などで言論統制を強める中国への静かな抵抗を表した。
新型コロナウイルス対策を名目に香港政府は集会を禁じ、少なくとも86人を不許可の集会に参加した疑いで逮捕した。
だが中国に抗議する国際的な連帯は消えていない。同じ日、東京をはじめ世界各地で、香港への弾圧やウイグル、チベットなど少数民族への人権侵害に対する抗議集会が行われた。
習近平国家主席は「心の奥底まで中華民族の共同体意識を植え付ける」として同化政策の強化を宣言している。相互監視や強制収容などを通じて民族固有の言語・宗教・文化を奪い取る。21世紀最大の人権弾圧といえる。
今こそ国際社会は中国への非難を強め、必要な制裁措置を取るべきだ。また自らの危険を顧みず抗議活動を続ける人々の勇気に共感と支援を絶やしてはならない。
施行後3カ月で、国安法違反容疑の逮捕者は少なくとも28人に上る。民主活動家の周庭氏や蘋果日報創業者の黎智英氏も逮捕(後に保釈)され、衝撃を与えた。台湾に密航しようとした民主活動家ら12人も海上で拘束され、広東省深セン市の警察当局に逮捕された。
民主派を徹底して締め付け、拘束や本土移送の恐怖で萎縮させ、批判を封じ込める。それが北京流の弾圧である。
国慶節の日、香港市民の笑顔や声、街頭の反中的なスローガンは一斉に消えた。だが黒い服に身を包み、自由を標榜する蘋果日報を手にして無言で歩く姿があった。自由を希求する人々の心の中までは制圧できない。
懸念すべきは、国際社会の萎縮である。
国安法は外国勢力と結託して国家安全に危害を加えた罪を定め、同法の適用対象に海外在住の外国人も含める。中国との関係に依存する国際機関やビジネス界、海外の指導者らが国安法の影におびえて中国批判や民主派とのかかわりを避ける風潮を呼ばないか。
全体主義の侵食に目をつぶれば民主主義への脅迫を許し、自由を失うことにつながる。香港やウイグル、チベットの人々の基本的人権の盾は国際世論の支持である。このことを、日本政府も肝に銘じるべきである。
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2020年10月4日付産経新聞【主張】を転載しています。