日本と英国の両政府が10月23日、来年1月の発効に向けて経済連携協定(EPA)に署名した。両国が自由貿易を推進するための基盤となる協定である。
併せて日本は、英国が目指す環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)加盟に協力する方針だ。署名式で来日したトラス英国際貿易相は23日、「(加盟への)道が開かれる」と述べた。
欧州から英国が加われば、TPPは環太平洋地域にとどまらない巨大な自由貿易圏に発展する。コロナ禍や米中対立で世界的に保護主義台頭が懸念される中、その意義は大きい。日本政府には積極的に英国加盟を支援してほしい。
さらに重要なのは、EPA署名を機に両国関係をこれまで以上に強化していくことだ。経済だけではなく、外交や安全保障を含むあらゆる面での連携である。
両国は自由や民主主義などの価値観を共有する。新疆ウイグル自治区や香港で人権を弾圧し、南・東シナ海で海洋覇権を追求する中国に対処するためにも、日英が結束を強めることは望ましい。
英国側でも2015年の国家安全保障戦略で日本との関係を「同盟」と記すなど日本をアジアの最重要パートナーと位置付ける。
英国が目指すのは、平和維持活動や人道支援、テロ対策、サイバーセキュリティー、インテリジェンス(諜報)など多岐にわたる連携だ。例えば10月19日には、サイバー分野では東京五輪に対するロシアのサイバー攻撃を英国が阻止したと報じられた。サイバー対策が脆弱(ぜいじゃく)な日本にとって英国の協力は大きい。
ジョンソン英首相は、英米など英語圏5カ国で機密情報を共有する枠組み「ファイブ・アイズ」に日本が参加することを「歓迎」するという姿勢をみせる。こうしたことも視野に入れつつ、英国との関係をさらに深化させたい。
一方、署名したEPAは、日本と欧州連合(EU)のEPAの内容を基本的に踏襲したものだ。英国のEU離脱で関税などの優遇措置が効力を失うことに対処する協定であり、両国の国会で速やかに承認してもらいたい。
懸念するのは、英国とEUによる自由貿易協定(FTA)交渉が難航していることだ。決裂して英EU間の関税が復活すれば、英国を含む欧州各国に進出している日本企業には打撃である。英国とEUが歩み寄るよう、日本政府からも働きかけるべきである。
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2020年10月24日付産経新聞【主張】を転載しています