「ラストサムライ」を自称し、京都市内で訪日客を相手にしたツアーガイドで人気を集めてきた91歳の通訳案内士、ジョー岡田さんが、新型コロナウイルスの影響によるピンチを逆手に「ネットサムライ」に転身した。訪日客の入国制限で売り上げは9割減となったが、オンライン講座で後進ガイドの育成に励みつつ、収束後を見据えて、次々と秘策を打ち出そうとしている。そのバイタリティーの源を探った。
リンゴを一刀両断
「エイッ!!」
雪が残る昨年12月下旬の京都府舞鶴市。自宅のパソコン前で、丁髷(ちょんまげ)に白ひげを蓄えた羽織袴(はかま)姿の“サムライ”が、気迫のこもったかけ声と同時に包丁でリンゴを一刀両断すると、画面越しに見つめていた受講生らが、突然オンライン上で始まったショーにとまどいつつも拍手を送っていた。サムライはその後も、生徒らからの質問に英語で答えながら、訪日客をガイドする際のポイントを解説。約2時間のオンライン講座は終始和やかな雰囲気に終始した。
「90歳を超えての手習いですが、ネットサムライも悪くないでしょ」。講師を務めたラストサムライこと、岡田さんは笑う。
昭和4年、大阪市生まれ。戦後に職を転々とする中で、外国人客と案内役の日本人ガイドを乗せる運転手をしていたときに、独学で英語を習得し、渡米もした。旅行会社での勤務を経て43年に独立。伏見桃山城(京都市伏見区)などで、「ジョー岡田」を名乗って真剣を使ったサムライショーを披露し、その後はサムライ姿で訪日客らを観光名所に案内するツアーを開催し、話題を集めてきた。しかし、年間100回以上行ってきたツアーは昨年はほぼゼロに。収入も激減し、愛飲するウイスキーも格安品にせざるを得なくなった。
原点はバブル崩壊
それでも、岡田さんは、前向きに捉える。「今までの中では一番きついが、必ず乗り越えられる」。手始めに取り組んだのが、観光ガイド団体が訪日客向けのガイド養成のために始めたビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を用いたオンライン講座だった。
これまでズームを使ったことはなかったが、知人に教えを請いながら操作方法を習得。10月から講師を務めた講座では、計10回で200人近くが受講した。さらに、過去にツアーを企画した旅行会社や参加者らと連絡を取り合い、新型コロナ収束後の新たなガイドツアーのあり方を模索する。「世界各国の人とやりとりしているし、ユーチューバーのインタビューも受けた。ネットでの活動の手応えも素晴らしいね」と話す。
こうした反骨精神を支える原点の一つが、バブル崩壊と円高で迎えた危機だ。14年間で13万人もの集客を記録したサムライショーは、平成のバブル崩壊と急激な円高で外国人客が激減したことで休止。京都市内の自宅を引き払うことを余儀なくされた。
ただ、「自分の企画で誰かを喜ばせたい」との熱意の灯は消えず、訪日客の増加を機に、80歳を過ぎた平成24年ごろからサムライ姿でのツアーを企画。訪日客からの絶大な支持を集め、見事に復活を遂げた。「他にも数多くの危機があったが、誠意と努力さえ心掛ければ何とかなる。そう思ってひたむきにやってきた」と振り返る。
大阪万博まで現役で
2025年大阪・関西万博まではガイドを続けるつもりだが、新型コロナ収束が見えない中で、更なる一手を考えている。「ガイドで使えるジョーク集をDVDにしようと思っている。優秀なガイドは大勢いるが、ユーモアに欠ける人が多い。笑わせながらガイドできる指南書のようなものを作ったら売れるんちゃうかな」。卒寿を過ぎてなお、サムライの目は輝き続ける。
筆者:秋山紀浩(産経新聞)