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「富士山の日」の2月23日、富士山をのぞむ静岡県裾野市内で着工された、次世代技術の実証実験のためトヨタ自動車が手がける未来都市「ウーブン・シティ」。完全自動運転やロボット、人工知能(AI)といった最新技術を居住環境内で試し、世界の研究者らも含め最終的に2千人以上が暮らす想定で多様な企業も連携するため、自治体は周辺を巻き込んだ新たな街づくりと活性化を期待。支援の動きをすでに始めている。“スソノ”が世界から注目される日も遠くなさそうだ。
「地域のみなさまとともに、未来に向けた歩みを進めていく」。この日の地鎮祭で、豊田章男社長は「ヒト中心の街」といった理念を示した上で、こう宣言した。
あらゆるモノや街全体を情報技術でつなぐ「スマートシティー」の一種で、公道などでは規制改正を待つ必要がある次世代技術を、比較的自由に取り組める私有地での生活内で試す狙いだ。実験を繰り返し、街は敢えて「どこまでいっても未完成」(豊田社長)と位置づける。自動運転車両専用や歩行者と共存用などと道路を用途で分け、これらが網目状となること、またトヨタのルーツで湖西市で生まれた織機にもちなみ「Woven(織られた)」の名となった。
豊田社長は昨年1月、令和3年初頭の着工を表明。新型コロナウイルス禍を乗り越え、予定通りにこぎ着けた。建設地は、高級車「センチュリー」も製造していたトヨタ自動車東日本の東富士工場跡地の約70万平方メートル。同社によると、豊田社長は「カイゼン」や多様性、自分以外の誰かのために働くといった「東富士工場のDNAが受け継がれていく」とも語った。
地鎮祭に招かれた川勝平太知事は御殿場市内で記者団に囲まれ、「富士山の日にくわ入れ式ができたことを喜んでいる。(トヨタ側は)富士山を見ながら未来を、美しく調和した街を、作り上げていくということだった」と期待を語った。
トヨタの連携の呼びかけに対し、企業や個人から3千件以上の応募があったという。周辺にも新産業と雇用、さらには世界からの交流人口の拡大が期待される中、行政も動き出した。
裾野市は昨年度末、ウーブン・シティとの連携を中心にあらゆる分野のデジタル化を推進する「スソノ・デジタル・クリエイティブ・シティ(SDCC)構想」を策定。今年度からは、周辺のインフラ整備や交通利便性向上、外国語や外国文化への理解を深める取り組み-といった施策の実現に乗り出している。
今月には市まちづくり課に専従職員3人を配置し、波及効果を市全体に拡大させる施策の検討に入った。当面は、最寄り駅となるJR岩波駅の周辺整備計画案を作成し、必要な行政手続きが円滑に進むよう同社との連携を強化。市の担当者は「最先端技術が街の外に出る際は、まずは市内で試してほしい」と期待する。
一方、静岡県側は「一つの大きな街ができることになるが、医療や教育、福祉までを民間だけで整備するのはなかなか難しいのではないか」とみる。先端技術も生かして医療健康産業集積を図る県の「ファルマバレーセンター」(長泉町)との共同研究、周辺へのインターナショナル・スクール開設といったアイデアが浮上している。
県の担当者は「これまでにない街で、法規制がボトルネックになることも考えられる。国や市と連携し手続きを円滑に進めることで、支援したい」と意気込んでいる。
入居開始時期は未定だが、住人はまずは高齢者や子育て世代、発明家など、360人程度でスタートする見込みだ。「ウーブン・シティでは、人が幸せになるために、さまざまなことに挑戦していく」。豊田社長はこう語っているという。