The Imperial Hotel in Tokyo 003

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政府の観光支援事業「Go To トラベル」の全国停止が長期化する中、宿泊関連業界が、1週間や1カ月単位の長期滞在を通じ、ホテルに暮らすように滞在する新たな宿泊プランを打ち出している。帝国ホテルは、新型コロナウイルス禍でテレワークが急速に普及したのを機に、企業の経営層などをターゲットに仕事場としての客室利用を提案する。20~30代の若い世代の需要に応える定額制のホテル長期滞在を提案する専用サイトの人気も高まっており、ホテル事業者にとっては新たな需要を取り込む商機となっている。

 

 

帝国ホテルプランは即日完売

 

帝国ホテル東京(東京都千代田区)では今月1日から、3月15日~7月15日の期間限定で1カ月単位で割安に長期滞在できる宿泊プラン「サービスアパートメント」の予約受け付けを開始したところ、即日完売となった。多くの利用客が1カ月滞在で予約したという。

 

タワー棟の99部屋が対象で、富裕層や企業の経営層の利用を狙い、30平方メートルの部屋の価格は30泊36万円。1泊3万円で最低5泊からの利用もできる。タワー棟の3フロアの一部を改装し、洗濯乾燥機や電子レンジを備えた共同利用スペースを新設する。

 

生活に必要なサービスを定額制で提供するのが特徴で、価格はルームサービスの食事が30日で6万円、シャツなどの洗濯サービスが30日3万円で受けられる。

 

帝国ホテルによると、今回の宿泊プランは「ホテルに暮らすように滞在する」ことがテーマだが、旅館業法に基づくサービスのため、通常の宿泊と同様の手続きで予約可能という。

 

同社は最初の緊急事態宣言が発出された昨年春以降、宿泊客の減少が長期化するとみて新たな需要発掘に向けた新サービスの検討を始めた。トラベル事業の効果で一時的な需要の回復はあったものの、年明けから2度目の宣言が出ると、ホテル内にあるレストランの時短営業なども重なり収益が悪化した。そんな中、テレワークの普及を受けホテルの客室を第2のオフィスとして使ったり、富裕層が客室を都心の生活拠点としたりするニーズを見越し、長期滞在プランを打ち出した。

 

これまでも、ホテルを長期滞在の場として利用している客層は、著名人や富裕層を中心に一定程度存在していた。仕事柄移動する機会が多い芸能人やスポーツ選手、静かな環境で執筆に集中したい作家などが〝上得意〟で、ホテルならではの洗練されたサービスや気ままな生活にあこがれてという人も少なくない。

 

作家の池波正太郎はしばしばホテルにこもって名作を書き上げた。映画評論家の淀川長治さんは、晩年を都内のホテルで文字通り暮らしていた。最近では、起業家の堀江貴文さんがホテル暮らしの魅力についてメディアなどで語っている。

 

 

光熱、通信費考えれば賃貸より安いプランも

 

20~30代の一人暮らしをターゲットにしたホテルの長期滞在プランの人気も高まっている。

 

定額制のホテル長期滞在プランを提案する予約サイト「goodroom(グッドルーム)ホテルパス」では、全国の宿泊施設と提携し、月額6万9800円から予約を受け付けている。

 

サイトを運営する「gooddays(グッドデイズ)ホールディングス」(東京都品川区)によると、宿泊客は基本料(月額6万9800円~)と、水道光熱費1日300円などの追加料金を同社に支払えば、希望する宿泊施設を利用できる。宿泊施設によって基本料は異なるが、8~9万円程度のホテルに人気が集まっているという。

 

このサービスは昨年6月に開始し、提携するホテルは全国約300施設に上る。利用者の45%が2カ月以上の長期滞在をしている。

 

ホテル側は、宿泊客がサイト運営会社に支払う利用料から手数料を差し引いた分を受け取る。利用料は通常の宿泊価格より割安となるが、安定した収入を確保できるメリットがある。また客室の清掃頻度は1~2週間に一度となっており、通常毎日行う清掃回数が減ってコストの削減効果も見込める。

 

一方、利用者には1~2週間に一度の清掃で十分という人も多く、需給が合致している。電子レンジや共用の洗濯乾燥機など備え付けの電化製品はホテルによって異なるが、宿泊施設のセキュリティー対策やインターネットの通信環境が整っていることなども利用者のニーズに即しているようだ。キッチンが備え付けられていない客室もあるが、仕事に集中したい若い利用者の間では、元々自炊をしないため問題にならないという。

 

都内で働くある利用者は、「賃貸住宅に住むよりも家賃、光熱費、通信費などを合わせた生活費全体の負担が軽くなった」と話している。

 

ホテルパスで長期滞在の宿泊予約を受け付けている東急ステイでは、全国28施設で昨年秋から7泊8日以上の長期滞在プランを提供している。今年1月は稼働中の客室のうち長期滞在の割合が昨年10月と比べ約10倍に増加したという。

 

東急ステイを運営する東急不動産の担当者は「長期滞在のニーズが広がっている」と話す。

 

新型コロナの影響で宿泊業界の苦境は長期化しているが、新たな生活様式の下でこれまでとは異なる宿泊需要が生まれ始めている。

 

筆者:岡田美月(産経新聞経済本部)

 

 

2021年2月13日産経ニュース【経済インサイド】を転載しています

 

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