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20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁は7日夜のテレビ電話会議で途上国への資金支援で一致した。背景にあるのは新型コロナウイルス禍の長期化で経済が脆弱(ぜいじゃく)な国々の破綻リスクが強まっているという事情だ。途上国などは通貨安に揺さぶられ、経済の正常化を進める米中や先進国との二極化が進む。一方、中国は途上国に債務の優先返済を求め、国際協調の資金を吸い上げる「抜け駆け」行為を続けている。こうした中国の横暴を止め、支援の実効性を高めることが世界経済の安定には欠かせない。
「全途上国が必要な財政支援を最大限利用できるようにしてほしい」
ブラジルやインドなどで作る比較的経済力が高い途上・新興国のグループ(G24)は5日の声明で、国際社会に支援を強く訴えた。
コロナ禍では昨年11月にアフリカのザンビアが債務不履行(デフォルト)に陥ったのをはじめ、一部の途上国が債務返済に行き詰まった。ワクチン確保もままならず、G20が昨年合意した債務減免に望みをつなぐ。
苦境の背景には米国の景気回復期待に伴うドル高と途上国や新興国で広がる通貨安がある。通貨安になればドル建て債務の負担が増すほか、輸入物価も上昇し、国民生活が打撃を受ける。インフレ懸念を抑えるため、景気を減速させる政策金利の引き上げを強いられた国は10カ国以上あり、G20のメンバーであるブラジル、トルコ、ロシア、アルゼンチンも含まれる。
回復から取り残された国々で経済危機が連鎖すれば、金融機関の債権が焦げ付いて株価が下落するなど市場が混乱し、日本経済にも悪影響が及びかねない。
こうした中、事態収拾を妨げているのが世界最大の貸し手とされる中国の対応だ。G20会合では、国内外のインフラ案件に貸し付ける政府系金融機関「国家開発銀行」について債務減免が義務付けられない民間銀行だと主張。途上国との融資契約では他の債権国より中国を優遇するよう求めるなど有利な「秘密条項」を定めているとされ、自国だけ返済を受け続けている。
「(国際協調で)支援しても中国への返済に回されたら何の意味もない」(麻生太郎財務相)。このため先進国とIMFは特別引き出し権(SDR)拡充と再配分に併せ、加盟国の詳細な取引内容・保有量の公表や、2年後に分析リポートを作成するなど透明性を確保する仕組みを作り、中国を抑えこみたい考えだ。
世界経済の雲行きが再び怪しくなる中、IMFがSDR拡充を正式に提案する6月に向け対応を急ぐ。
筆者:田辺裕晶(産経新聞)