Japan Toshiba 008

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東芝の経営が再び混乱する事態に陥った。銀行出身の車谷暢昭社長が辞任し、綱川智会長が社長に復帰した。英投資ファンドから2兆円超の買収を提案された直後の突然のトップ交代は、迷走を続ける同社の姿を象徴している。

 

 

車谷氏の社内外における信頼は低下していた。経営陣には車谷氏が関与した可能性があるファンドからの買収提案に不信感を持つ役員もいるようだ。求心力を失った社長の辞任は当然といえる。

 

後任の綱川氏には経営を回復軌道に乗せる責任がある。東芝は原発など安全保障に直結する高度な技術を持つ。それらを守る上でも混乱を早期に収拾してほしい。

 

三井住友銀行出身の車谷氏は、リストラなどで利益を確保し、今年1月に同社は東証1部への復帰を果たした。だが、「物言う株主」である海外投資ファンドとの対立が激化しているほか、社内でも外部から登用した人材に頼る車谷氏への不満が高まっていた。

 

その車谷氏が期待したのが、英CVCキャピタル・パートナーズによる買収提案だった。既存株主の株式を買い取り、非上場化する内容だが、車谷氏が同社の日本法人会長を務めていた関係もあり、社外取締役らには唐突な買収提案に利益相反を疑う声もあった。

 

車谷氏はその不信感を拭いきれなかった。さらに社外取締役の中には、社長交代を求める動きもあったという。今回の辞任は「再建は完了した」とする本人からの申し出によるものだが、社内外の信任を失ったことによる辞任と受け止めるべきだろう。

 

東芝の社内は今、買収提案に大きく揺れている。綱川氏は社員の不安を払拭し、株主の信頼を取り戻すためにも再建の道筋を示す必要がある。債務超過を避けるため、海外投資ファンドに出資を仰いだのは当時の社長だった綱川氏だ。綱川氏には株主との対立を解消する責務がある。

 

懸念されるのは買収提案の取り扱いだ。CVCからは具体的な提案がまだ届いていないというが、東芝の企業価値の向上に資するような買収提案であるべきだ。

 

ファンド勢による高値買収の思惑が先行し、株価ばかりが過熱する事態は好ましくない。安全保障技術を日本にきちんと残す観点からも、東芝への買収提案には慎重な検討が不可欠である。

 

 

2021年4月16日付産経新聞【主張】を転載しています

 

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