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宇宙飛行士の星出(ほしで)彰彦さん(52)ら4人を乗せた米スペースX社の新型宇宙船クルードラゴンが日本時間4月23日、フロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げに成功した。翌24日には、国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングし、ISS滞在中の野口聡一さん(56)らと合流。約半年間の長期滞在がスタートした。星出さんは滞在中、日本人で2人目の船長として米欧など計7人のチームを率いる。「クルーや世界中の関係者とスクラムを組み、ISSの先の宇宙探査に向けても挑戦していきたい」と大役に挑む。
日本人のISS船長は2014年の若田光一さん(57)以来。船長はISS全体の状況を把握し、地上との連絡調整や、火災などの緊急事態に安全対応の指揮を執る重責を担う。
民間有人宇宙船の再利用時代
星出さんが搭乗した宇宙船クルードラゴンは、一度使用した機体を初めて再利用した。安全性を担保しながら複数回使うことで宇宙への輸送コスト低減につなげる狙いがある。「再利用時代」の本格的な到来により、有人宇宙飛行の活性化が期待されている。
ISSへの有人輸送を長く担ってきたロシアのソユーズ宇宙船は使い捨てタイプなのに対し、運用段階の2号機である今回のクルードラゴンは、有人試験飛行で使った機体を再利用した。昨年8月に海上に帰還した後に分解し、300以上の構成部品について摩耗度や寿命などを点検して使用できるようにした。
打ち上げに使った大型ロケット「ファルコン9」も、主エンジンを搭載した1段目を再利用。昨年11月に野口さんらが出発時に使った機体を船上に着陸させ、回収したものだ。
スペースXはクルードラゴンと基本設計が同じ無人の物資補給船を累計10回近く再利用してきたほか、ファルコン9も無人用で同50回以上の再利用実績がある。何回も使うことで生じた細かい不具合の対策を今回の点検にも反映させた。
安全性を評価した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の尾藤(びとう)日出夫特任担当役は「無人用の点検ノウハウは十分にある。有人での打ち上げはその延長線上にあり、大きな課題はなかった」と指摘する。
星出さんも「中古というイメージが付きまとうかもしれないが、軌道上で飛行実証された機体ともいえる。多くの人が点検に関わっているという点で安全だ」と語る。
信頼性とコスト減で飛行に弾み
再利用の実現は、信頼性と低コストの両立を目指した米航空宇宙局(NASA)による民間活用の到達点だ。東京理科大の米本浩一教授(航空宇宙工学)は宇宙輸送コストについて「再利用で半分か3割以上は安くなるのでは」と指摘する。機体を新たに製造すれば2、3年はかかるため、短期間で多くの打ち上げをこなせる利点もある。
米スペースシャトルも再利用型だったが、大気圏突入時の高温から機体を保護する耐熱材の点検に膨大なコストがかかり、2011年に廃止された。クルードラゴンの帰還カプセルにはNASAの支援を受けて開発した軽量で耐熱性に優れた炭素繊維の素材が採用されており、再利用の実現は技術革新の寄与が大きい。
有人宇宙開発をめぐっては、月や火星を目指す国際プロジェクトや宇宙旅行が計画されており、有人輸送の需要増が見込まれる。スペースXとともにNASAの委託を受けた米ボーイング社も再利用型の新型宇宙船を開発中だ。欧州や中国も再利用型のロケットなどの開発を進めている。
米本氏は「宇宙船は再利用によるコスト削減時代に到達し、開発費はかかっても安全に繰り返し使える飛行機のような乗り物になっていくだろう」と話す。
筆者:有年由貴子(産経新聞)