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静岡、山梨両県は、任意で集めている富士山保全協力金(入山料)について、将来的に税金として徴収する方針を固めた。登山者に事前の予約や講習受講、装備の確認といった立ち入り条件も新たに設定する。昨夏は新型コロナウイルス感染防止のため史上初めて閉山された富士山だが、両県は今夏、通常通りの山開きを目指している。そうなると懸念されるのが、登山マナーや無謀な登山。“入山税”導入には、マナー向上や危険な登山の抑制といった意図もうかがえる。
不公平感を解消
「制度に課題は多いが、検討の方向性として、この案で進めていくということでよろしいですね」
3月15日。静岡県庁と山梨県庁などをオンラインで結んで開かれた「富士山世界文化遺産協議会」の作業部会で、“富士山入山税”導入を目指す骨子案が承認された。
5合目より先に立ち入る登山者を対象に、一定の条件を課したうえで「法定外目的税」として入山料を徴収する。集めた税金は、環境保全や登山者の安全対策、世界遺産としての「普遍的価値」の情報発信に使われる。導入時期や金額は未定とされた。
富士山では平成26年以降、登山者から1人1千円を集めているが、あくまで任意。令和元年には静岡県側で約5750万円が集まったものの、協力したのは登山者の約67%だった。税金化の議論は、進んで協力する人と支払わない人との間に不公平感があるとして制度見直しが急がれていた、という背景がある。
ただ、税金は対象者全員からくまなく徴収することが原則。徴収漏れの防止策は欠かせない。両県は今後、全員に確実に納めてもらう工夫や、徴収漏れが起きた場合の対応についても検討する。
弾丸登山の抑制も
入山料の税金化に加えて両県は、登山者に一定の条件を課していくことでも一致した。5合目から山頂に向かう人を対象に、装備の確認▽山小屋の事前予約▽安全な登山や環境保護についての事前講習受講-などを義務付ける方向で検討している。登山の安全確保と環境保全のため、登山道入り口などで入山料徴収と立ち入り条件の確認を同時に行うことを想定している。
登山マナーの向上に加え、準備不足のまま山頂に向かう“弾丸登山”を抑制する狙いがある。「サンダルで登ろうとする人もいた。環境保全と安全な登山のために、条件を付すべしとの意見は強かった」。静岡県富士山世界遺産課の担当者はこう説明する。
地元からは異論も
金額は、現行の1千円が基準となるが、徴収や立ち入り条件確認といった事務経費の上乗せも考えられる。
対象者についても議論がある。当面は5合目から上に入る登山者となるが、登山者数が最も多い吉田口を擁する山梨県富士吉田市は「安全対策や環境整備は、5合目より下の来訪者も大いに恩恵を受ける。目的を明確にした上で、登山者だけでなく来訪者全員に負担してもらうべきだ」と主張。検討会議では「まず登山者のみとし、将来的には5合目のみを訪れる観光客からも集めてはどうか」とする2段階導入論が大勢を占めた。
制度の詳細が固まれば、地元の同意を前提に両県で関連条例を制定し、総務相の同意を得る手続きに入ることになる。だが、導入に慎重な自治体もあるため、令和4年度からの実施は厳しい状況だ。
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【法定外目的税】 地方税法で定められた税目以外に、特定の目的に使用するために自治体が独自に設定する地方税。平成12年に地方分権の一環として創設された。各自治体での条例制定と総務相の同意が必要となる。静岡、山梨両県内では、山梨県富士河口湖町が全国初の法定外目的税として「遊漁税」を導入済みだが、両県とも県税での導入例はまだない。全国的には宿泊税や産業廃棄物税が多い。
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【記者の独り言】 静岡県に暮らしておよそ15年になるが、実は一度も富士山に登ったことがない。友人たちが「思ったよりもきつかった」というのでおじけづいている。一方で、シーズン中の登山道は繁華街のように混雑し、ごみのポイ捨てまであるとか。山に登るために税金を納めるなんて世知辛いと思う半面、美しい霊峰を維持するためには致し方ないとも感じる。今夏こそ、装備を整えマナーを守って、富士登山に挑戦しようか。
筆者:田中万紀(産経新聞)