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ロシアが毒殺未遂に遭った反体制派指導者ナワリヌイ氏の収監を続け、同氏の健康悪化に対する深刻な懸念も伝えられている。だが、プーチン露政権は耳を貸さず、不当な拘束を続けている。
ロシアの獄中での処遇は概して劣悪で、ナワリヌイ陣営も拷問同様の窮状を訴えていた。ロシアでは2009年、当局者らの腐敗を告発した弁護士のマグニツキー氏が不審な獄中死を遂げた前例があり、国際社会は監視と釈放への圧力を緩めるべきでない。
ナワリヌイ氏はドイツでの治療を受けて帰国した直後、モスクワの空港で拘束された。過去に受けていた詐欺罪での執行猶予判決が収監の根拠とされた。
しかし、この判決についてはロシアも加盟する欧州人権裁判所が「恣意(しい)的で合理性がない」と判断しており、人権裁はナワリヌイ氏の即時釈放を命じた。ロシア当局が無視することは許されない。
プーチン政権は再三、ナワリヌイ氏の釈放を求めるデモを弾圧して大量の拘束者を出したほか、ナワリヌイ氏を支援してきた団体を「過激主義組織」に指定して事実上の活動停止に追い込んだ。毒殺未遂事件を含む一連の出来事は全て、政権による政敵排除だと受け取られても仕方がない。
ナワリヌイ氏はロシアに民主化をもたらしうる数少ない指導的政治家である。ナワリヌイ氏をめぐる人権問題は、彼を支持し、変化を託す多くのロシア国民の問題であることを日本や欧米民主主義国は認識すべきだ。
中国とロシアという世界の筆頭的な強権国家が、ともに国内での人権弾圧と近隣諸国・地域への威圧的行動を同時並行的に進めていることも見逃せない。
中国が台湾の防空識別圏に戦闘機や爆撃機を進入させ続けていた3月以降、ロシアはウクライナ東部との国境地帯などに15万人規模とも推定される大規模部隊を集積させ、ウクライナを恫喝(どうかつ)した。
5日まで英国で開かれた先進7カ国(G7)外相会合の共同声明が、中国や台湾海峡の問題とならんでロシアに言及し、その「無責任で不安定を招く行動」に懸念を示したのは妥当である。
自国内での人権状況を軽視する国は、周辺の国民・市民に銃を突きつけることにも躊躇(ちゅうちょ)しない。この強い警戒感を持ってロシアに向き合うことが欠かせない。
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2021年5月10日付産経新聞【主張】を転載しています