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5月10日、米国の税関当局がユニクロのシャツ輸入を差し止めたことが公表された。人権問題を巡る米欧と中国の対立によって日本企業も深刻なリスクに直面している。
27日~28日には主要7カ国(G7)貿易相会合が予定されている。議長国の英国は強制労働問題も議論する意向だ。中国の人権問題を最優先するタイ米通商代表とこの問題で共振し、及び腰の日本は孤立することも予想される。
そうした会議を控えてユニクロの輸入差し止めが米国当局から公表されたのだ。
必要な政府主導の国際ルール作り
日本政府はこの問題で腰が引けているだけではいけない。欧米では企業に対して調達先などの人権侵害のリスクをチェックする「人権デューデリジェンス(精査)」を義務付ける法整備が進んでいる。日本は企業向けの指針を作ったにとどまる。あとは企業の自主的な判断というのでは、あまりにお粗末だ。
加藤勝信官房長官は記者会見で、ユニクロの件に関して「正当な経済活動を確保するよう適切に対応していく」と述べた。問題は具体的にどのようにして行うかだ。「人権」という正義の下に、自由な企業活動を規制される。厄介なのは恣意的に運用されかねないことだ。
日本はかつて「安全保障」という正義の下で苦い経験をしている。ソ連へ輸出した工作機械が潜水艦のスクリュー音を小さくするのに使われたという1987年の東芝機械ココム(対共産圏輸出統制委員会)違反事件だ。輸出されたものが最終的に軍事用途に使われるかをチェックするのは難しい。インテリジェンス機能の欠如した日本は反論のしようもない。
そうした国にとって自国企業を他国の恣意的運用から守る術が必要だ。それは「軍事用途に使わない」との誓約書を輸入者から取ることだ。気休めに過ぎないかもしれない。しかし最低限、企業としてやるべきルールを国際的に合意して、万が一問題が起きた時に申し開きができるようにしておくことは、日本のような国にとって不可欠だ。
人権問題も同様だ。強制労働で作られたものかどうか、調べてもわからないのがほとんどだ。だからこそ企業が守るべき共通のルール作りを政府は積極的に提案すべきだ。
企業の対応も危うい
2020年3月、オーストラリアのシンクタンク、豪戦略政策研究所(ASPI)が、ウイグル人の強制労働への関与が疑われる取引のある企業83社を公表し、日本企業14社も含まれていた。日本企業の対応もまちまちだ。取引先の調査、監査を実施した企業はまだいい。アンケートに無回答の企業は論外だ。
日本企業の多くはこうした場合の対応をCSR(企業の社会的責任)担当か資材調達部門に任せている。経営幹部による責任体制での取り組みや、取締役会への報告をしている企業はわずかだ。
しかし米中対立の中での人権問題は、これまでと次元が異なり、企業経営を揺るがしかねない。欧米と中国の巨大マーケットの不買運動という「前門の虎、後門の狼(おおかみ)」の状況だ。企業も人権問題のリスク管理体制を根本的に見直すべきだろう。
筆者:細川昌彦(国基研企画委員・明星大学教授)
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国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第795回(2021年5月24日)を転載しています