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東京五輪・パラリンピック中止論が叫ばれている。中止要求の主たる理由は以下の点に絞られる。①多数の外国人選手や関係者の来日で、コロナウイルスの感染が拡大する②日本人医師を五輪関係者の医療にとられて、国内医療体制が崩壊する③五輪開催の莫大な出費を国民のために振り向けるべきだ④緊急事態宣言で国民生活へのしわ寄せは甚だしく、五輪開催の意味はあるのか。
万全に近い安全対策
①について、この1年間、世界では430もの国際スポーツ大会が選手5万4000人の参加を得て開催された。いずれの大会も安全裡に終了した。東京五輪はこうした例に学び、対策をさらに厳しくした。選手ら来日者全員に出発前の4日間で2回のウイルス検査を義務づけ、出発前の空港では陰性証明の提示が必要だ。日本入国時と入国後3日間、毎日検査を受け、その間は自室で隔離される。空港から宿舎、ホテルへの移動、練習会場、試合会場への移動も全て専用車輌や専用バスに限定し、公共機関の使用は認めない。一般の日本国民とは異なる動線を設けて、両者を接触させない。違反者には帰国のペナルティも考慮中だ。かなり万全な対策だと思うが、どうか。
②について、各国の五輪委員会(NOC)が随行医療専門家を増やし、日本への医療負担を軽減すると決定した。日本への入国予定者も18万人から7万8000人に削られ、80%がワクチン接種済みで来日する。万が一、問題発生の場合、五輪選手らのコロナ医療はスポーツドクターが担当し、国内の医療への新たな負担は生じさせない。
③については、予算の使い方の是非は別にして、菅義偉首相は国民のために必死の努力をしている。現在、医師への報酬は1回のワクチン注射で2070円だが、時間外なら2800円、休日なら4200円だ。それでも接種が進まないとして、政府は新たな上乗せを決定した。いくつかの条件はあるが、最高で1回の注射で7200円という相当な額が支給される。
この高額提示に、消極的だった医師も前向きになったそうだ。それ以前から献身的に働いている医師も少なくないのは十分承知だ。それでも問いたい。国民へのワクチン接種を急ぐ余り、カネで動く国民性を醸成するこのような方策でよいのか、と。医師会や医師のモラルはこれでよいのか。私は強い違和感を抱く。
日本の力を世界に示そう
特定の業種や多くの個人へのしわ寄せは明らかだ。さらなる配慮を政府に求める心情は分かる。が、国難の中、政府と国民が共に努力するその成果が五輪開催なのだ。他のいかなる国にもおそらくできないこの日本人の貴い闘いの成果と日本人の力を世界に示す好機である。五輪開催は私たちが忘れていた日本人の真の力を取り戻すきっかけとなるだろう。全盲のパラリンピック競泳選手、木村敬一氏の言葉が心に響く。
「開催するための努力は、自分たちの社会を取り戻す努力につながる。ウイルスを封じ込めていく努力と、ほぼイコールだと思う。僕らがやろうとする努力は、社会を良い方向へ向けていく努力であるはずだ」
筆者:櫻井よしこ(国基研理事長)
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国家基本問題研究所(JINF)「今週の直言」第798回(2021年5月31日)を転載しています。