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共産党や軍部が独裁をしく国々は言論弾圧を常とし、世界から批判されているが、それは強権体制のみに巣くうものではない。自由と民主主義を掲げる国であっても、言論の自由を侵す政策、制度がつくられ、問題となる場合はある。
韓国で3月に施行された「対北ビラ散布禁止法」は、その深刻な例である。
韓国内では、北朝鮮の独裁政権を問題視する人々、団体がビラをつけた風船を38度線の北側へ飛ばしてきた。北朝鮮の非人道的体制を批判し、国際情勢や歴史の真実を伝えるためだ。
これを禁ずるのは、民主国家において最も大切な権利の一つである「言論の自由」を踏みにじるものだ。ビラ散布に北朝鮮が反発したため、韓国の文在寅政権と与党が制定してしまった。信じがたい行動である。
5月21日にワシントンで行われた米韓首脳会談をめぐっては、北朝鮮をめぐる問題の中で、対北ビラ散布禁止法についてどのような議論が交わされるかが注目されていた。
4月には米議会の人権委員会でも取り上げられ、「韓国社会の北朝鮮化をはかる試みだ」などと批判の声が出た。
5月初旬には、南北軍事境界線一帯からビラ50万枚を大型風船で散布した脱北者団体の事務所を韓国警察が同法違反の疑いで家宅捜索していた。言論弾圧そのものである。
米バイデン政権は「米国は世界中の人権問題に声をあげていく」との立場だったはずだが、米韓首脳会談で対北ビラ禁止法の問題が解決しなかったのは残念だ。
米韓首脳の共同声明は、「北の人権状況を改善するために協力することに同意する」などの一般的方針を記すにとどまった。
国際社会は文政権の過度な従北姿勢の象徴ともいえる対北ビラ禁止法に見て見ぬふりをしてはならない。
11日から英国で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)の際に、価値観を共有する国としてオーストラリア、インド、韓国などが招かれる。だが、北朝鮮の独裁政権におもねるあまり、言論の自由を抑圧する文大統領に出席資格があるのだろうか。
日米欧のG7諸国や印豪の首脳は文氏に対し、対北ビラ禁止法の撤回を迫ってもらいたい。
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2021年6月7日付産経新聞【主張】を転載しています