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香港に近い中国広東省の台山原子力発電所で放射能漏れ事故が起きたもようだ。
同原発の建設や運転で協力関係にあるフランス企業が米政府に、原発周辺地域での放射線量の増加などを伝えた、とCNNテレビが報じた。
漏れたのは放射性希ガスのキセノンやクリプトンとみられ、ウラン燃料を収めた燃料棒の破損が疑われるが、中国政府は詳細を伏せている。
中国の原発事故は、状況次第で重大な影響が台湾やフィリピン、日本などに及ぶ。習近平国家主席は速やかに事故の原因と現状を世界に公表すべきである。
日本が東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を決めた際、中国政府は「極めて無責任で周辺国の国民の利益を深刻に損なう」と批判した。原発の動向に敏感な中国が今回の事故について積極的に情報公開しないのはおかしい。
新型コロナウイルスの流行でも情報発信の遅延と隠蔽(いんぺい)性が国際問題になったばかりだ。その繰り返しは許されない。
台山原発には、フランスの技術による最新鋭の欧州加圧水型炉(EPR)2基がある。出力175万キロワットの大型原発だ。事故が起きたのは世界初のEPRとして2018年から運転を開始した1号機とされる。
不具合は2週間ほど前からとみられるが、中国当局は周辺地域の放射線量の基準値上限を引き上げることで原発の運転を続けているという。事実とすれば原子力発電の安全文化に背を向けた、恐るべき背信行為である。
約10年前に世界10位の原子力発電国だった中国だが、その後の原発建設ラッシュによって今年1月現在では48基の原発を有し、米仏に次ぐ世界3位の原発大国となっている。
エネルギー強国を目指す共産党指導部からは、原子力発電所に電力供給の厳しいノルマが課せられているはずだ。発電所の中央制御室に異常を知らせる警報が出ていても、勝手に軽微と判断し、次の定期検査まで運転を続けることもあるだろう。
そうした安全性の軽視が最も危険であることを、この機に習氏は学習すべきである。
翻って菅義偉政権には、今回の台山原発の異常情報の入手の遅れを反省してもらいたい。日本の安全保障を揺るがす問題だ。
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2021年6月16日付産経新聞【主張】を転載しています