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政府がマレーシアへの防空レーダーの輸出に向け、7月に始まる入札に参加することが6月19日、分かった。受注に成功すれば、装備の海外移転に道を開いた防衛装備移転三原則に基づき昨年8月に契約したフィリピン向けに続くレーダー輸出で、国産装備の完成品輸出としても2例目となる。マレーシア周辺空域での中国軍機の威嚇が明らかになる中、南シナ海で安全保障協力を強化する意義がある。
マレーシア国防省は今年6月2日、空軍が航空機探知用に導入する防空レーダーの入札公告を出し、8月末までに輸出できる装備を提案するよう求めた。7月1日に入札内容に関する説明会をオンラインで開き、入札手続きが始まる。
導入するレーダーは当面1基で、数カ月かけて選定するとみられる。ロッキード・マーチン社などの米国勢、2018年にタイへのレーダー輸出で日本が競り負けたスペインのインドラ・システマス社をはじめ欧州勢も入札に参加すると見込まれ、激しい受注争いが予想される。
日本がマレーシアへの輸出に向けて提案するレーダーはフィリピンから受注した三菱電機製が有力だ。三菱電機はフィリピンへの輸出にあたり、航空自衛隊が運用しているレーダーのFPS3を基にフィリピン空軍の要求も加えた新たなレーダーを開発・製造しており、政府はこの提案方式をマレーシアにも適用することを視野に入れている。
輸出の前提として、装備を相手国に適正に管理してもらう上で欠かせない法的枠組みである防衛装備品・技術移転協定はマレーシアと締結済みで、平成30年に発効している。受注が決まればスムーズに輸出できる環境は整っている。
マレーシアにとって空域監視態勢の強化は急務の課題となっている。マレーシア空軍は今年5月31日にボルネオ島沖の南シナ海上で中国の16機の軍用輸送機が領空に接近するのを確認し、空軍機を緊急発進(スクランブル)させたと発表した。輸送機は沿岸から60カイリ(約110キロ)内で戦術的な編隊を組んで飛行していた。
南シナ海上空でも中国の脅威
昨年8月に日本が受注に成功したフィリピンに続き、マレーシアでもレーダーを増強する必要性が高まっているのは、南シナ海で中国の脅威が海域だけでなく空域でも深刻化している証しだ。
「中国の威嚇を受けて入札を前倒ししたのか時期が偶然一致したのか定かでないが、マレーシアが危機感を強めているのは確かだ」
日本政府高官は指摘する。マレーシアがレーダーの入札公告を出したのは今年6月2日だ。その2日前の5月31日、中国軍機が領空付近に大挙して押し寄せ、民間旅客機の空路付近も通過し、レーダーで探知したマレーシア空軍は戦闘機による緊急発進で対処を迫られたばかりだった。
南シナ海では中国がエネルギー資源確保を強化するため2019年以降、中国が一方的に主張する境界線「九段線」と重なる海域で海警局の船舶や海洋調査船を投入し、マレーシアの資源探査などへの威嚇を繰り返してきた。フィリピンの排他的経済水域(EEZ)には今年3月から中国船団が居座っている。
こうした海域での示威行動に加え、空域での脅威も高まっている。フィリピンは中国軍機が16年ごろからバシー海峡を出入り口にして台湾を周回する飛行に神経をとがらせ、防空レーダーの増強に踏み切った。マレーシアも今年5月の中国軍機の領空接近まで表沙汰になっていなかったとはいえ、空域での中国の脅威を以前から深刻に受け止めていたからこそレーダーを増強する。
南シナ海上空で中国の脅威が高まることは予期されていた。
中国は14年から埋め立てを強行した人工島の3つに滑走路を整備した。南シナ海上空で航空優勢を確保しやすくするため中国軍機の展開能力を向上させ、米軍を南シナ海に寄せ付けないのが狙いだ。一方的に防空識別圏を設定する可能性も指摘されている。
航空戦力で劣るマレーシアが対処できないと踏めば中国は威圧を強める。マレーシアが中国に屈することなく航行の自由と並ぶ上空飛行の自由を維持できるよう、レーダー輸出とそれに伴う防空態勢強化の教育訓練を通じ、日本の海上交通路(シーレーン)の要衝でもある南シナ海の平和と安定に寄与することは日本の国益に資する。
筆者:半沢尚久(産経新聞)
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