~~
東京五輪で台湾選手が大活躍し、好成績が相次いでいる。7月31日に行われたバドミントン男子ダブルス決勝で、李洋、王斉麟組が中国人選手ペアを下し、金メダルに輝くと、全土は大興奮に包まれた。しかし、表彰式の中継映像を見て、ため息をついた台湾人は少なくなかった。一番高く掲揚されたのは、台湾の旗「青天白日満地紅旗」ではなく、台湾のオリンピック委員会の旗だった。演奏されたのも一般の台湾人にはなじみがない「国旗歌」という曲だった。1984年のロサンゼルス五輪以降、繰り返されている光景だ。
台湾が正式な「国号」とするのは「中華民国」で、「国歌」もある。しかし「台湾は中国の一部」と主張する中国が国際社会で影響力を拡大した70年代以降、台湾は国際大会で「中華民国」で参加できなくなった。中国は同時に「台湾独立」勢力台頭を阻止するため、「台湾」の名前での参加も認めていない。台湾は76年と80年の2大会に参加せず、中国や国際五輪委員会(IOC)などと交渉を重ねた結果、84年の大会から「チャイニーズ・タイペイ」という名称で五輪に参加するようになった。
しかし、「タイペイ」(台北)は台湾の一都市で、台北出身ではない選手もたくさんいる。「いつか台湾の名前で五輪に参加したい」というのが、多くの台湾人の悲願だ。
このため、開会式の中継で、「チャイニーズ・タイペイ」チームが入場した際、NHKのアナウンサーが「台湾です」と紹介したことは台湾で大きく報道され、「やっと自分の名前で呼んでもらえた」と反響を呼んだ。
香港も選手の活躍にわいている。フェンシング・男子フルーレ個人で7月26日、張家朗が優勝。97年の中国返還後、香港代表として初の金メダルだった。香港メディアによると、張が勝利した瞬間、大きなテレビ画面で試合を生中継していた香港中心部のショッピングモールには大歓声が沸き起こった。しかし、その直後の表彰式で中国国歌が演奏されると、歓声は一転してブーイングに変わり、「私たちは香港人だ」のかけ声が響いた。
昨年、香港国家安全維持法(国安法)が施行されたことから前回の五輪開催時と比べて、中国に不満をもち「香港は中国と違う」と主張する香港人が急増したことが背景にある。
台湾在住の香港人大学生は「私たちは東京五輪のすべての試合で、中国と対戦する相手チームを応援している」と話した。
香港警察は7月30日、ショッピングモールで率先してブーイングを始めたとする40歳の男性を中国国歌を侮辱した疑いで逮捕した。
筆者:矢板明夫(産経新聞台北支局長)