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東京電力福島第1原子力発電所の処理水を海洋放出する方針をめぐり、政府が海外での風評被害払拭へ取り組みを進めている。8日には国際原子力機関(IAEA)が処理水の安全性評価を行うことで合意したと発表。外国政府や海外メディアへの情報提供にも力を入れる。ただ、中国や韓国は日本の対応に反発する動きを続けている。政府はあの手この手で誤ったイメージの拡大を抑えたい考えだ。
「処理水の放出についてもうかがうことができた。菅義偉(すが・よしひで)首相に御礼申し上げたい」。2日にオンラインで開催された太平洋・島サミットで、共同議長国・ツバルのナタノ首相は処理水の処分方法について説明した菅首相に謝意を示した。政府はサミット開催の2カ月前から周到に根回しを続けており、ナタノ氏の「御礼」はその成果でもある。
太平洋の島嶼(とうしょ)国は米国やフランスなど大国による核実験で影響を受けてきた経緯があり、処理水の海洋放出は「センシティブな問題」(政府高官)とされる。外務省や経済産業省の幹部らは島嶼国の在日大使館に出向き、処理水の安全性について説明を重ねてきた。
当初は厳しい目
処理水の海洋放出の方針が決定した当初、国際社会から厳しい目が注がれた。
海外メディアは日本メディアの報道を引用する形で日本政府の対応に警鐘を鳴らしていた。ロイター通信は4月6日、「汚染された福島第1原発の水が海に放出」と報じた。
「放出するのは汚染水でなく、ALPS(多核種除去設備)を含む複数の浄化設備で浄化した処理水だ」
海洋放出の政府方針が決まった4月13日、外務省と資源エネルギー庁はオンライン説明会を在京大使館向けに開き、49の国・地域、機関から計60人が出席。その後も在京の海外メディア向け説明会をオンライン形式で行い、20社以上から特派員ら約30人が参加した。
報道ぶりに変化
こうした説明の結果、海外メディアの報道ぶりにも変化が出始めた。米CNNテレビや英BBC放送は「放出前、タンク内の水は十分に希釈されるのでトリチウム濃度は国際基準に準拠した日本の国内規制基準よりもずっと低くなる」などと政府の説明を引用する記事を報道している。
ただ、中国の王毅国務委員兼外相は6月1日の国際会議でも「核汚染水を勝手に放出してはならない」と批判。韓国政府も「周辺国の安全と海洋環境に危険を招く」と海洋放出に反対している。日本政府としてはIAEAとの協力や欧米メディアへの説明を通じて、中韓両政府の「非科学的な主張」を際立たせたい考えだ。
筆者:岡田美月(産経新聞)