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ワクチン接種への信頼を得るためには、不明な点を速やかに調べて、情報を公表することが第一である。事実関係が分からないままでは接種への理解も進まず、阻害要因となるだけだ。
米モデルナ社製の未使用の新型コロナウイルスのワクチンの一部に異物が混入しており、厚生労働省は先週、関連するロットも含めた約163万回分のワクチン使用を見合わせた。
見合わせ前に接種していた30代の男性2人が亡くなっていたことも分かった。2人とも基礎疾患やアレルギー歴はなく、2回目の接種後だった。2人の男性が接種したワクチンに異物が混入していたかどうかは判明していない。
死亡の原因は調査中で、問題のワクチン接種との因果関係も不明だが、世の中に不安が広がるのは当然である。
現実に、職域接種などに中断の動きがあった。厚労省は使用を見合わせた接種会場には代わりのワクチンを配送し、滞りなく対応するとしている。菅義偉首相は今後の接種への影響を問われ、「大きな影響を与えるものではないとの報告を受けている」と語ったが、認識が甘い。
異物の成分や危険性、混入の経緯などが明らかにならない限り、同一ロット以外で製造されたワクチンにも不安、不信が広がることを防ぐことはできない。
厚労省は審議会で評価、検討を行い、販売や流通を担う武田薬品工業も因果関係の有無を調査するとしているが、悠長なことをいっている間はない。事態は急を要する。迅速で徹底した調査と全面的な開示が強く求められている。
異物が確認されたワクチンは、モデルナ社と委託契約を結ぶスペインの製薬会社、ロビ社が製造し、日本にのみ納入された。製造ラインの一つが原因だった可能性があるという。モデルナ社とともに、ロビ社にも迅速で徹底した調査と、責任ある対応を求めなくてはならない。
沖縄県でもモデルナ社製のワクチン瓶内から異物が確認された。こちらは瓶のふたにあるゴム栓の破片とみられており、万が一体内に入ったとしてもリスクはないという。こうした情報も混同され、「モデルナ社製は危険」という短絡的な風評につながりかねない。正確な情報開示の徹底だけが、そうした事態を防ぐ。
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2021年8月31日付産経新聞【主張】を転載しています