Electric Vehicle and Mineral Resources 001

TOYOTA's EV bZ4X

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中国と韓国の車載電池メーカーが鉱物資源国に急接近している。脱炭素の実現に向け、世界の自動車メーカーが軒並みガソリン車から電気自動車(EV)への転換を加速する中、電池材料となる希少金属(レアメタル)の供給不足と価格高騰のリスクが高まってきたからだ。トヨタ自動車もグループとして鉱山開発に関与する可能性に触れるなど重要性を増すEV用資源の確保だが、菅義偉首相の退陣で、期待された政策支援には不透明感も漂う。

 

レアアースは電気自動車の車載電池に使用される

 

韓国のLG電子と現代自動車は7月下旬、折半出資でインドネシアにEV用電池工場を新設することを決めた。投資額は11億ドル(約1200億円)で2024年に量産を始める。

 

LG電子は米国や中国、欧州に次々にEV用電池の製造拠点を展開中だが、自動車の主要市場とはいえないインドネシアへの投資に踏み切ったのは、世界最大の推定埋蔵量という同国のニッケルが狙いだ。

 

EV用電池には、主要材料にリチウムやコバルト、ニッケルといったレアメタルが欠かせない。

 

リチウムの生産は豪州が約5割、コバルト生産は約7割をアフリカのコンゴが占める。さらにニッケル生産で世界トップの約35%を占めるインドネシアは、投資の呼び込みと自国産業の育成のため、昨年からニッケル鉱石の輸出を禁じた。資源偏在などの供給制約がある一方、世界的な脱炭素の潮流で、これらのレアメタルの需要は急増する見通し。国際エネルギー機関(IEA)は40年までにリチウム需要は20年比で40倍、コバルトとニッケルは20~25倍に膨らむと分析しており、EV用資源の争奪戦が見込まれる状況だ。

 

フォルクスワーゲンのコンセプトカー「ID. LIFE」(ロイター)

 

欧州連合(EU)はガソリン車やディーゼル車の新車販売を35年に禁止する方針を掲げ、米国も30年に新車販売に占める電動車の割合を50%に引き上げる。これに対応し、自動車各社は一斉に新車販売の主力をEVやプラグインハイブリッド車(PHV)などの電動車に転換する計画を進めている。だが、電池材料の安定調達がおぼつかなければ各社のEV戦略も、各国の脱炭素政策も絵に描いた餅に終わりかねない。

 

LG電子の動きはそうした事態をにらんで資源確保に布石を打ったもので、車載電池世界最大手の中国メーカー、寧徳時代新能源科技(CATL)は一段と踏み込んだ策を講じている。

 

CATLは昨年、インドネシア国営鉱業会社のPTアンタムと車載電池のサプライチェーン(供給網)づくりで協力する協定を結んだほか、今年4月には中国の資源会社の洛陽モリブデンがコンゴに保有する銅・コバルト鉱山の持ち分25%を買収し、自ら鉱山権益まで取得した。7月下旬には、リチウムを使用しない新型のナトリウムイオン電池を発表し23年の実用化を目指す方針を示すなど、資源確保とレアメタルを使わない代替技術の両面でEV用資源の需給逼迫(ひっぱく)への備えを固めつつある。

 

トヨタの新型EV「bZ4Xコンセプト」

 

電池供給を握ることでEV市場の主導権を狙う中韓企業に対し、日本企業はどう巻き返していくのか。ポイントはやはり技術力だ。

 

住友金属鉱山は8月、使用済みの電池から銅やニッケル、コバルト、リチウムを回収し再資源化する独自リサイクル技術を世界で初めて確立したと発表。再資源化したニッケルとコバルトを材料とした電池で、天然資源を使った電池と同等の性能を実証したという。

 

また、トヨタは9月7日に開催した車載電池に関する説明会で、レアメタルの使用量を削減する技術やコバルト・ニッケルを使わない新電池の材料開発を進めていると明らかにした。

 

こうした日本企業の技術は、持続可能な開発目標(SDGs)にも沿った取り組みとして、EV用資源の利用で大きな存在感を発揮できる期待がある。

 

EUの欧州委員会が昨年12月に打ち出した「電池規則案」は、EUで販売されるEV用電池の製造に関し、二酸化炭素(CO2)排出量の開示や一定のリサイクル材料の使用などを段階的に義務づける措置を盛り込んだ。規則案がそのまま欧州議会で承認されるかはまだ見通せないが、EV普及と環境保全の両立に、リサイクルや資源利用の減量化の新技術が不可欠になるのは間違いないだろう。

 

ただ、新たな技術の実用化には時間と大きな投資がかかる。並行して天然資源の安定調達も確保しなければならず、企業が抱える負担は重い。

 

このため、トヨタの生産部門トップ、岡田政道執行役員は7日の説明会で、EV用資源の確保は「トヨタ単独で戦わない領域」と述べ、多くのEV関連企業との連携や政府の支援が不可欠との認識を示した。

 

この点では、トヨタや住友金属鉱山、パナソニックなど55社が参加するEV関連企業の協力の枠組み「電池サプライチェーン協議会」が4月に発足。経済産業省も、来年度の予算編成と税制改正に向けて次世代電池の開発や鉱物資源の探鉱・開発などの支援予算の増額、海外資源への投資リスクを軽減する税制措置などの要望をまとめ、中韓企業に対する巻き返しの機運は高まりつつあった。

 

10月4日、自民党総裁に選出された岸田文雄新首相

 

しかし、菅首相の突然の退陣はこれに水を差した形で、政策支援の実行スピードが損なわれる恐れも出てきた。脱炭素は、誰が次期首相となっても主要な政策課題だが、個別の産業支援策の力点は異なる可能性もあるからだ。

 

トヨタの岡田執行役員は、資源確保のための鉱山開発について「トヨタ自身では考えないが、グループとしては、今後の調達の動向によって可能性がないとはいえない」とも話す。

 

基幹の自動車産業の競争力に影響するEV用資源の問題は、国の経済安全保障にもかかわるだけに、次期政権には企業の動きをしっかり支える姿勢が求められる。

 

筆者:池田昇(産経新聞経済部)

 

 

2021年9月20日産経ニュース【ビジネス解読】を転載しています

 

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