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中国からはしばしば、こちらの度肝を抜くようなニュースが飛び込んでくる。習近平氏が中国共産党の総書記に就任した直後、2012年の出来事だった。重慶市北碚区共産党委員会の雷政富書記と愛人のみだらな姿が、インターネット上で流され大騒ぎになった。雷書記には汚職も発覚して、裁判で懲役13年の実刑判決を受けている。
今回は、共産党の元最高指導メンバーと著名な女子プロテニス選手のスキャンダルである。彭帥さん(35)といえば、テニスの四大大会ウィンブルドンと全仏オープンの女子ダブルスで優勝している。そんなスター選手が中国版ツイッターといわれる微博(ウェイボ)に、張高麗前副首相(75)と不倫関係にあったと、実名で告白する文章を投稿した。
投稿によれば、2人が関係を持ったのは張氏が天津市のトップだった時期である。引退した張氏から再び連絡があり、テニスを一緒にした。その後自宅に招かれ、性行為を強要されたという。何とも生々しい内容である。
投稿は即座に削除されたものの、瞬く間にネット上で拡散した。動画サイトからは「総理と私」というドラマも視聴できなくなった。中国で首相は「総理」と呼ばれているため、前副首相を連想するのを当局が恐れたとの臆測も広がっている。欧米メディアは、有名人の性的暴行を告発する「#MeToo」運動の観点から、高い関心を寄せている。
厳しい情報統制が敷かれている中国で、なぜ投稿が事前の検閲から逃れられたのか、謎である。来週には、党の重要会議である第19期中央委員会第6回総会の開催を控えている。政治の絡むスキャンダルに、当局は常にもまして神経を尖(とが)らせていたはずだ。
投稿の内容の真偽を含めて、その背景を知りたい。
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2021年11月5日付産経新聞【産経抄】を転載しています