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秋の風物詩ともいえる大学の学園祭。新型コロナウイルスの感染状況が落ち着く中、来場者を制限しながら対面型での開催を実現した大学があるほか、オンラインであっても開催にこだわった大学も少なくない。背景には学業だけでなく、部活やサークルの活動発信、学園祭の運営技術といった文化継承への危機感がある。コロナ禍の入学で人間関係が希薄だった1、2年生には、貴重な交流の機会にもなっている。
対面型
「間もなく公演が始まります!」「見に来てください!」。20日に学園祭「三田祭」が始まった慶応大の三田キャンパス(東京都港区)には、学生たちの歓声が響き渡った。
三田祭は昨年がオンラインだったため、2年ぶりの対面開催。23日までの4日間、1日当たりの参加者を上限5千人の無料チケット制で行う。参加団体の卒業生ら外部の来場者も一部認めた。飲食を伴う模擬店は原則禁止し、一部催しはオンライン配信するなど感染対策との両立も図った。
実行委員会委員長を務める3年の清水勝輝さん(21)は「来年以降に運営の中心を担う1、2年生に、対面開催でノウハウを伝えられた。例年は15万~20万人が来場する大規模の学園祭なので、運営スキルの継承は非常に重要」と指摘。「コロナ禍で、物理的にも精神的にも人との距離が離れる中、つながる機会にしてほしい」と話す。
ダンスサークル「Dancing Crew JADE」は大教室のステージでストリートやジャズ系などのダンスを披露。1年の堀田恵生(めい)さん(18)は「授業はまだオンラインが多いが、メンバー全員が集まれてうれしい。ダンスは観客の反応がモチベーションになるので、対面で披露できることに感謝したい」と笑顔を見せた。
都内では、淑徳大も13、14日に東京キャンパス(板橋区)で「淑徳祭」を対面開催。教職員、学生のみの参加とし、人数を制限した上で、学生たちの活動を発信する場を確保した。
同大学事部の担当者は「外部の来場者がなく、例年と比べると寂しさもあったが、オンライン授業が多く、学生同士のつながりが希薄の中、意義のある学園祭だった」と振り返る。
オンライン型
東京大駒場キャンパス(目黒区)の「駒場祭」(21~23日)はオンラインのみで開催される。当初は対面とオンラインを合わせた「ハイブリッド型」の開催を目指したが、運営形態を決める8月上旬の締め切り段階で国内の感染状況が好転しなかったため、対面での開催を断念した。
学園祭の雰囲気を肌で感じられる対面開催に対し、オンラインのみの開催は盛り上がりに欠ける点は否めない。それでも開催にこだわったのはなぜか。
「コロナ禍によって学生の学術・文化活動の発表の場が失われており、伝統を引き継ぐためにも実行に至った」。駒場祭の実行委員会はこう説明する。
専用サイト上に、参加団体が企画用のページを開設。「東大LEGO(レゴ)部」などの人気団体は、動画投稿サイト「ユーチューブ」で作品展示や解説を行う。
実行委は「飲食模擬店などの企画が消失してしまった分、会員制交流サイト(SNS)での広報活動に力を入れている」と話し、オンライン形式ならではの違いを強調する。
中止
一方、昨年に続いて中止せざるを得なかった大学の関係者の失意は大きい。
10月30日から開催予定だった「神山祭」を中止した京都産業大(京都市)の担当者は「2年続けて学生文化の発信の場がなくなり、学園祭の運営技術や学生文化の継承にも心配が生じている」と打ち明ける。
他大学より比較的早い時期に開かれるため、オンラインであっても準備期間が足りなかった事情がある。同大学生部は「キャンパスの活気の消失にもつながりかねず、来年こそは開催を実現できるように支援したい」と話した。
筆者:永井大輔(産経新聞)