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投げて打って走る。野球少年の憧れを体現した日本の青年が、米球界の顔として認められた。これほど誇らしいニュースがあるだろうか。
米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平が、全米野球記者協会の選ぶア・リーグの最優秀選手(MVP)に輝いた。
日本選手では渡米1年目で首位打者となった2001年のイチロー以来、2人目となる。投票した30人全員が「1位」と評価する満票での受賞は、イチローでもかなわなかったことだ。
大谷は「米国全体のファン、チームに感謝したい」と喜びを語った。先発登板した試合で打席にも立つなど、誰も見たことのない正真正銘の「二刀流」に驚かされ、楽しませてもらったのはファンの方だ。心から拍手を送りたい。
今季の戦いを終えた大谷に、イチロー氏は「比較対象がないこと自体が、誰も経験したことがない境地に挑んでいるすごみであり、その物差しを自らつくらなくてはならない宿命でもある」とのコメントを出した。シーズンを通して試合に出続け、打者で46本塁打と100打点、投手で9勝と156奪三振の成績を残した大谷は、後世の批評に耐え得る「物差し」を打ち立てたのではないか。
このオフは大リーグや日本球界で、二刀流挑戦をうたう選手が現れた。投打分業の常識を覆した点でも、今季の偉業は長く記憶されるだろう。大谷には二刀流の本家として、安易な模倣や追随を許さぬ活躍を来季以降も望みたい。
豊かな才能を持つ者に寛容な米球界の懐の広さには、日本も学ぶ点が多い。気掛かりなのは、大谷が15日に日本記者クラブで行った会見で「(日本より)アメリカの方が受け入れてくれる器は広いなと感じた」と語ったことだ。
スポーツや教育の現場で、伸ばせたはずの才能の芽を摘み取っていないか。保護者を含め、日本のスポーツ指導者や教育関係者らは自らに問い直してほしい。
大谷は「自分がやっていることに、すごいなという感覚はない」とも語った。誰もやっていないことに挑戦する人を受け入れる土壌が、日本に広がれば理想的だ。
夢を膨らませた子供たちも多いだろう。野球にかぎらず、自分の力を発揮できる分野はあるはずだ。目標や志を高く持ち続けてもらいたい。次代の「オオタニ」になれる可能性は誰にでもある。
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2021年ン11月20日付産経新聞【主張】を転載しています