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「旅の形」変化 名物駅弁に逆風
新型コロナウイルス禍のもと、鉄道の利用者は大幅に減少した。その影響はさまざまな業界に波及し、そのひとつが駅弁業界だ。
神戸の名物駅弁「肉めし」で知られる老舗業者の「淡路屋」(神戸市)はコロナ前より年間売り上げは4割ほど減少。そこで同社は新商品として、年間売り上げ50万個を誇る人気駅弁「ひっぱりだこ飯」などの冷凍弁当を開発し、全国各地からのお取り寄せに対応できるようにした。また、ひっぱりだこ飯の壺型の容器のフタを売り出したところ、これまで1万個以上売れたという。柳本雄基副社長(40)はユニークな試みについて「あがくしかない。そのとき売れるものを考えないともたない」と説明する。
新型コロナ以外にも、この業界には逆風が吹く。列車のスピードアップ、乗り換え時間の短縮による販売機会の減少、そしてコンビニの進出など。柳本さんは「昭和の時代は400社あった業者で現在、まともにやっているのは80社ぐらい。駅弁よりスーパーや給食事業の方が売り上げが高いところもある」と話す。
かつて、列車が駅に着けば、ホームには必ず駅弁売りがいた。静岡ではうなぎ、広島に行けばカキ、冬の日本海はカニ。淡路屋の「肉めし」は昭和40年に誕生。タレに漬けたスライス肉が独特の食感だった。また49年5月には阪神間の鉄道開通100年を記念して「神戸しゃぶしゃぶ弁当松風」が登場。全国で初めて販売価格が千円の大台に乗った。時刻表の駅弁紹介欄で見つけたとき、どんな豪華なものかと想像した。柳本さんは「三田米に神戸牛のしゃぶしゃぶ。よく売れました」。現在は1400円。夏季に予約販売のみの扱いになっている。
新型コロナの感染状況が落ち着いていた年末年始、東海道新幹線の利用者数は前年同期比約2・6倍の284万4千人だった。新大阪駅、東京駅などで駅弁を販売するJR東海パッセンジャーズは「初めて緊急事態宣言が出された令和2年4、5月ごろは特にお客さまが大きく減少し、過去に例を見ない『お客さまがいらっしゃらない』状況だった。年末年始では久々に多くの人でにぎわう駅を見ることができた」としている。
旅の形の変化、長引く新型コロナ禍。取り巻く環境は変われど、いつまでも駅弁が旅のお供であることを願う。
筆者:鮫島敬三(産経新聞)
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【用語解説】駅弁業者
駅構内で駅弁を販売する業者などでつくる「日本鉄道構内営業中央会」(東京)。会員は「JR6旅客鉄道株式会社において旅客構内営業を営むものにより構成」と定義づけされ、最盛期だった昭和43~44年は約430社だったが、令和元年8月には96社にまで減少している。会員は駅弁のパッケージと店舗で、駅弁の文字に日の丸をあしらった四角い駅弁マークが使用できる。
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2022年1月11日付産経新聞【鉄道風景いまむかし】を転載しています