Preparation for Beijing Winter Olympic Games

A woman waits on a bus station in front of an advertising board featuring Bing Dwen Dwen, the Beijing 2022 Winter Olympic Mascot and Shuey Rhon Rhon, the 2022 Beijing Winter Paralympic Games Mascot, in Beijing, China January 19, 2022. REUTERS/Fabrizio Bensch

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北京冬季五輪の開幕まで1カ月を切った。開催国である中国の習近平政権は覇権主義的な動きと強権姿勢をエスカレートさせている。その習氏が肝いりで実現させた“異形の五輪”に世界と日本はどう向き合うべきか、4人の識者らに聞く。トップバッターは、国際政治が専門の皇學館大学准教授、村上政俊氏だ。

 

Masatoshi Murakami, Associate Professor of Kogakkan University in Tokyo, Japan

 

■外交ボイコット、世界の転機

 

-バイデン米政権は北京冬季五輪の外交的ボイコットを発表した。2008年の夏季五輪ではブッシュ大統領が訪中したが、対応の違いはなぜ生じたか

 

08年の北京五輪は日米ともに首脳が招待に応じた。中国側には当時の皇太子殿下(今上陛下)を招待するアイデアまであったともいう。チベットとウイグルという民族問題が五輪の前後で高まり、米国内に反対論もあった中でブッシュ氏が訪中に踏み切った背景には、中国に関与していくという対中政策の基本ラインがあった。日本も同じだ。

 

しかし現在、米国の専門家の間では、関与政策は近代史上で最も失敗した戦略だったという非常に厳しい評価も出ている。米国にとって最大のライバルを自らつくり出したためだ。この認識の変化が、対応の違いの根本的な要因だ。

 

-米国が関与政策を転換したのはなぜか

 

中国が南シナ海で人工島を造成し、力による現状変更を行ったことが大きい。新疆(しんきょう)ウイグル自治区で100万人単位が拘束されるなどの人権弾圧も明らかになり、複合的に火がついた。

 

かつては中国を同じ土俵の競争相手とは見ていなかったが、経済やGDPの差が縮まり、覇権の中核になる制海権にも米国に危機が迫っている。

 

-外交的ボイコットは無意味だという声もある

 

現在問われているのは、中国の人権状況について各国がどう考えるかだ。米中どちらの顔も立てて落としどころを探るのは、象徴性を問う外交的ボイコットの意味を理解しない極めてまずいやり方だ。政府関係者の派遣見送り表明を米英豪加から遅らせた背景には、このような考えがあったのだろう。

 

だが遅ればせながらも米などと足並みをそろえたことで、民主主義対権威主義の時代における日本の現在地を何とか示すことができたのはよかった。日本が意思決定をさらに先延ばしにすれば、中国側は、自ら判断できない脆弱(ぜいじゃく)性を日本が抱えているとみてますます圧力をかけてきただろう。

 

五輪の開会式は、開催国の国家元首が開会を宣言する場だ。そこに意図的に誰も送らなければ象徴的な意味合いは大きい。後から振り返っても、一つの転機として記憶される瞬間になる。

 

Masatoshi Murakami

 

■米中軋轢 日本は危機の当事者

 

-習近平指導部は21世紀半ばまでに米国を凌駕(りょうが)する超大国になる目標を掲げている。新冷戦に勝つのはどちらか

 

最終的には西側が勝利を収めるだろう。現在は体制間競争が起きている。民主主義あるいは自由を重んじる社会を選択するのか、権威主義体制による統制社会を選ぶかだ。

 

歴史は繰り返すのではなく韻を踏む。現在の新冷戦は、経済の相互依存性をはじめとして過去の米ソ冷戦と異なる点も多いが、本質となる体制間の競争、そしてその結果という点では最終的には西側に利がある。

 

中国はAIや量子などの技術も発展している。ただし最終的にどれだけの技術革新を起こし、持続できるか。国民の支持を選挙という形で得ていない体制が、国民に統制や規制を加え続けることは中長期的に難しい。経済成長が鈍化し歯車が逆回転し始めたときに体制の脆弱(ぜいじゃく)性は強まる。

 

-中国は夏季五輪を開催したことで自信をつけ、その後の強気な政治姿勢につながった。冬季五輪が成功裏に終われば再び自信を深めることになるか

 

中国は新型コロナの封じ込めと、パンデミックからの回復を打ち出したいと考えており、それが実際に成功するのか注視が必要だ。

 

一方、外交的ボイコットという形で、中国とそれ以外の国の軋轢(あつれき)が鮮明になる可能性がある。重要なのは米中新冷戦に巻き込まれたくないと思っている多くの国々の動きだ。そこに米中がどういうアプローチをしていくのかも勝負の分かれ目になるかもしれない。

 

中国はロシアとの連携プレーを軸に、米国への対抗姿勢を示し、フランスやインドなど戦略的な自律性を重視する国に訴えかけていくだろう。

 

-日本は米国と同じ歩調をとるべきか

 

そうだ。なぜかというと日本が最前線にいる当事者だからだ。中国の軍事的な拡張という安全保障の危機の中で、アジアの第1列島線が最前線となっている。自分の国をいかに守るかを最優先に考えれば、どう行動すべきかはおのずと導き出される。

 

確かに日本は中国との間で経済的な相互依存が非常に強い。それを明日から断ち切ることはできないかもしれないが、中国に対する経済的な依存をいかに減らしていくのか、真剣に検討する時期にきている。

 

台湾も中国市場に対する依存度が極めて大きいが、蔡英文政権は依存度を減らそうとしている。

 

日本は台湾よりもはるかに多くの選択肢がある。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に加盟し、欧州連合(EU)や米英とは経済・貿易協定を結んでいる。日本が中国市場への依存度を下げていくことが、岸田政権が掲げる「経済安全保障」の眼目となるべきだ。

 

聞き手:西見由章(産経新聞)

 

 

【プロフィル】村上政俊(むらかみ・まさとし)
昭和58年生まれ。東京大法学部卒業後、外務省入省。退官後に衆院議員を1期務めた。専門は米中関係や日米同盟など。

 

 

2022年1月7日産経ニュース【習近平の五輪を問う】を転載しています

 

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