~~
ロシア軍が撤退したウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊で、少なくとも数百に上る市民の遺体が路上などで見つかった。
キーウ州のブチャでは、手を縛られるなどした遺体が多数見つかった。市長は280人を集団埋葬したと明らかにした。
国際人道法は軍隊が民間人を故意に攻撃したり、殺害したりすることを禁じている。ロシア軍の行為は決して許されない。
ロシアのプーチン大統領が国連憲章を踏みにじってウクライナ侵略を命令し、侵攻したロシア軍は非道な殺戮(さつりく)を行った。プーチン大統領と、民間人を殺害したロシア軍将兵は、疑いようのない戦争犯罪人である。
日本も「調査と追及」を
ウクライナのゼレンスキー大統領は同国市民を狙った「ジェノサイド(大量虐殺)だ」と非難した。数百人もの市民が拷問を受けて殺され、遺体にはロシア軍の地雷が仕掛けられたと指摘した。
ロシア国防省は「一人の住民にも手を出していない。(市民が犠牲になった)写真はウクライナ政府の挑発だ」として、虐殺は捏造(ねつぞう)だと反論した。
だが、キーウ州解放を取材するため現地入りした欧米諸国のメディアの記者らも惨状を目の当たりにしている。ロシアの主張こそフェイクだ。軍の非道ぶりを恥じる心はないのか、計画的な残虐行為だから意に介さないのか。
国際社会から非難の声があがったのは当然だ。
ブリンケン米国務長官は「ロシア軍は戦争犯罪を重ねてきた」と述べ、責任を追及する考えを示した。ジョンソン英首相もロシアの戦争犯罪だと非難した。
岸田文雄首相は「人道上問題となる行為、国際法違反の行為は厳しく非難する」と語った。松野博一官房長官は会見で「罪のない民間人に極めて凄惨(せいさん)な行為が繰り広げられていたことが次々と明らかになった。深刻に受け止め、強い衝撃を受けている」と述べた。
プーチン大統領や残虐な行為に手を下したロシア軍将兵に責任をとらせねばならない。
ウクライナのクレバ外相は国際刑事裁判所(ICC)に対し、今回の市民殺害の証拠を収集するよう求めた。
核兵器を保有するなど依然として強力な軍事力を持つロシア政府や軍の関係者を裁くことは容易ではないが、戦争犯罪の証拠を早急に集めておくべきだ。
国連のグテレス事務総長は「独立した調査」の必要性を訴えた。日本政府も深刻に受け止めているのなら、戦火の最中でも調査に積極的に加わってもらいたい。
問題はキーウ周辺に限らない。ウクライナ南東部でもロシア軍の民間人への残虐行為が報じられている。ロシア兵による女性への性暴力や略奪も伝えられる。
侵略し、人道上の罪を重ねても反省のないロシアには一層の制裁を科さねばならない。
エネ輸入を即刻止めよ
バルト三国のリトアニアは、ロシアからの天然ガス輸入を停止したと発表し、他の欧州連合(EU)諸国に同調を呼びかけた。
EUのミシェル大統領は対露追加制裁に言及した。日本は、EUやG7(先進7カ国)諸国と結束して制裁を強化すべきだ。
日本に求められるのはロシア産のエネルギー輸入の停止である。原油採掘の「サハリン1」と天然ガス開発の「サハリン2」に、政府系企業や三井物産、三菱商事などが権益を持つからといって、ロシアからエネルギーを得て、侵略や市民殺害の戦費にされかねない代金を払っていいわけがない。
さらに、侵略、戦争犯罪を引き起こした張本人であるプーチン大統領を国際社会から徹底的に排除すべきである。
国連総会や、今年11月にインドネシアで開催予定の20カ国・地域首脳会議(G20サミット)などでプーチン大統領の出席を認めないよう日本は動くべきだ。もし出席するなら日本は会議のボイコットを表明するのも選択肢だ。
ロシアの最近の世論調査では、プーチン大統領の支持率は70~80%と極めて高い。
報道やネットの統制で、ロシア国民はロシア軍の市民殺害や原発攻撃などの非道な振る舞いを知らされていない。支持率といっても砂上の楼閣である。ロシア国民に真実を伝え、侵略者を政権から追い払う努力は極めて重要だ。
◇
2022年4月5日付産経新聞【主張】を転載しています